■ はじめに
漏水トラブル(土地工作物責任)による損害賠償(金銭賠償の原則)については、2023年2月5日付の記事で簡単に触れていますが、実際の事件(事故)における損害額の認定は容易ではありません。
損害が生じたこと自体に争いがない場合でも、その損害額に関しては、被害者側の考え(主張)と加害者側の考え(主張)に開きがあることは少なくありません。
その場合、最終的に裁判所に認定してもらうことになるでしょう。
そして、裁判所は、「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは」「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」のですが(民事訴訟法248条【※1】)、最判平成20年6月10日【※2】が判示するところによれば、損害が発生したことが明らかである場合には、裁判所は、損害額の立証不十分を理由に請求を排斥することはできず、相当な損害額の認定を義務付けられているといえます。
今回は、実際の裁判例【※3】~【※6】において、裁判所がどのような損害額認定をしているのかをみてみましょう。
【※1】民事訴訟法248条
(損害額の認定)
第248条 損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。
【※2】最判平成20年6月10日(事件番号:平成18年(受)第265号事件)
裁判所の判断の要旨
事実関係によれば、上告人は本件和解前には本件土地1についても採石権を有していたところ、被上告会社は、本件和解前の平成7年7月20日から同月27日ころまでの間に、本件土地1の岩石を採石したというのであるから、上記採石行為により上告人に損害が発生したことは明らかである。そして、被上告会社が上記採石行為により本件土地1において採石した量と、本件和解後に被上告会社が採石権に基づき同土地において採石した量とを明確に区別することができず、損害額の立証が極めて困難であったとしても、民訴法248条により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、相当な損害額が認定されなければならない。そうすると、被上告会社の上記採石行為によって上告人に損害が発生したことを前提としながら、それにより生じた損害の額を算定することができないとして、上告人の本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
■ 東京地判令和2年2月13日(事件番号:平成29年(ワ)第36752号事件)【※3】について
原告が、被害者と締結していた損害保険契約に基づき、被害者が被った損害について被害者に保険金を支払ったことにより、保険法25条1項に基づき、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を取得したとして、加害者に対し、民法709条又は715条に基づき228万5529円(及び遅延損害金)の支払を求めたところ、裁判所は203万6453円(及び遅延損害金)の限度で認容した事例
【※3】東京地判令和2年2月13日(事件番号:平成29年(ワ)第36752号事件)
裁判所の判断の要旨
本件において、原告が本件居室所有者に支払った保険金の額は、本件居室所有者の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権における損害額である。したがって、原告は、損害保険契約に基づき保険給付を実施したことにより取得した上記の損害賠償請求権に係る損害額を立証する必要があり、原告は、本件見積書及びこれに対し査定した資料(以下「本件査定資料」という。)を提出している。
この点に関し、原告は、被告が自ら提出した本件見積書の見積金額を争うことは、禁反言の法理に反し許されない旨主張する。しかしながら、本来、不法行為に基づく物的損害が生じた場合の損害額は、生じた侵害の結果に基づき客観的に定まるべきものであって、加害者の態度や認識に影響を受けるものではない。また、被告は、損害額を認定する一資料として、同見積書を提出したにすぎず、これを提出したことが、記載された見積金額を相当な損害額として自認する趣旨を含むものでないことは明らかである。したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
被告は、本件居室が、本件居室所有者により転売のためのリフォーム工事をすることが予定されていたことから、補修工事としての必要性がなく、損害額は、別紙1に記載された限度にとどまる旨主張する。しかしながら、そのような事情があったとしても、上階からの水道水の水漏れ汚損という本件事故の態様に照らし、通常、補修が必要となる工事であれば、当該工事に係る工事金額は、本件事故と相当因果関係がある損害に当たるというべきであり、一律に別紙1において指摘がされた各工事の必要性がないことにはならないから、被告の上記主張を採用することはできない。
そこで、以下では、甲1及び4のほか、本件工事業者の調査嘱託に対する回答(以下「本件回答」という。)に基づき、被告が別紙2備考欄のとおり指摘した本件見積書の工事項目につき、各工事の必要性及びその工事金額の相当性につき、認定判断するものとする。
以下の各項目表題部に続き記載された金額は、当裁判所の認定した損害額であり、括弧内に記載の各金額は、本件査定資料における原告の査定額、及び被告の別紙2における主張額である。
ア 設備解体工事 5万円(原告:10万円、被告:5万円)
同工事の解体対象設備は4点記載されており、そのうち、便器及び洗面器については、原告が本件査定資料において判断しているとおり、本件事故によっても、取替えの必要性は認められない。したがって、上記各設備の解体手間に要する費用は、本件事故と相当因果関係のある損害であるとはいえない。
そうすると、解体対象の設備4点のうちの残りの2点についてのみ、解体手間は必要であったとみるべきであるから、その額は5万円とするのが相当である。
イ 建具工事(玄関収納含) 5万7500円(原告:12万6500円、被告:7万3876円)
甲1によれば、本件見積書の上記工事項目の額は、床面積から積算されていることが認められるが、そのような積算方法によるのが相当であるとは考え難く、他方、本件回答(11枚目)によれば、同回答に記載の建具単価が上記の原告の査定額とほぼ一致していることからすれば、個々の建具の積算価格によるのが相当である。そして、本件回答における建具単価には、改修前の和室(改修後の洋室)のクローゼット及び押入れに関する建具単価(本件回答2、3枚目及び12枚目No.5ないし7)も含まれているところ、上記の部屋は水回り付近ではないため、本件事故による水漏れ汚損があったとは認められない。
したがって、上記の各建具単価を除いた洗面所に関する単価額(5万7500円)が相当である。
ウ 内部造作工事(建具取付、収納内造作、棚、他) 12万円(原告:15万1800円、被告:7万円)
前記イの認定によれば、当該工事項目にも、改修後の洋室クローゼット内の造作の材料費及びこれに対する取付け手間が含まれているものと推認することができるが、本件回答(11枚目)によれば、クローゼット内造作の単価は、1万4200円にすぎないことも考慮すると、被告の主張額は低すぎると考えられる。したがって、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)248条を適用して、12万円とするのが相当である。
エ 給水・給湯(切り回し)工事(材工共) 7万円(原告:同左、被告:3万円)
前記アのとおり、便器及び洗面台の取替えの必要性は認められないが、その場合であっても、上記各設備は既存品を再設置するものであることかからすると、給湯、給水の配管の配置を全体的に調整する切り回し工事は、システムキッチンの取替えがされることによって、便器等の再設置に係る配管部分も含めて必要となり、その全体の作業手間は変わるものではないというべきである。
したがって、上記工事についての原告の査定額は、相当である。
オ 排水(切り回し)工事 材工共 5万円(原告:同左、被告:3万円)
前記エと同様の理由による。
カ 衛生器具取付け及び各所結び工事 10万円(原告:同左、被告:5万円)
前記エのとおり、便器及び洗面台は既存品を再設置するものであることから、取付け及び接続の作業手間は変わるものではないというべきであるから、原告の査定額は、相当である。
キ ガス警報器取付け工事 2万3710円(原告:3万5000円、被告:1万2420円)
本件事故の態様に照らし、上記工事の必要性は認められる。
原告の査定額の相当性を根拠づける特段の資料は提出されていないが、他方で、被告がガス業者に確認した工事内容も不明であることからすると、被告の主張額も直ちに採用することはできない。以上からすれば、民訴法248条を適用し、標記の額とするのが相当である。
ク 照明器具工事 6万6560円(原告:10万円、被告:3万3120円)
本件事故の態様に照らし、上記工事の必要性は認められる。
原告の査定額の相当性を根拠づける特段の資料は提出されていないが、被告の主張する個別の単価は、最低額とみるべきこと、設置品と同一品であることが確認できないこと、水漏れ事故における部品等の取替えは、既存品の経年劣化を考慮することなく、新品への取替えとなるのが、社会通念に照らし通常の賠償方法であると考えられること、照明の個数が不明であること、設置工事費の根拠が不明であることから、被告の主張額も直ちに採用することはできない。以上からすると、同工事の工事金額については、民訴法248条を適用し、標記の額とするのが相当である。
ケ 火災報知器取付け工事 8170円(原告:1万5000円、被告:1340円)
本件事故の態様に照らし、上記工事の必要性は認められる。
原告の査定額の相当性を根拠づける特段の資料は提出されていないが、他方で、被告の主張する単価は最低額とみるべきこと、設置品と同一品であることが確認できないことから、被告の主張額も直ちに採用することはできない。以上からすると、同工事の工事金額については、民訴法248条を適用し、標記の額とするのが相当である。
コ 壁・天井クロス貼、床CF貼工事 8万4600円(原告:10万3500円、被告:6万5700円)
本件事故の態様に照らし、上記工事自体の必要性は認められる。
原告の査定額の相当性を根拠づける特段の資料は提出されていないが、他方で、被告の主張する単価は最低額とみるべきこと、設置品と同種・同等の品であることが確認できないことから、被告主張額も直ちに採用することはできない。以上からすると、同工事の工事金額については、民訴法248条を適用し、標記の額とするのが相当である。
サ 内部クリーニング 3万1375円(原告:5万円、被告1万2750円)
本件事故の態様に照らし、上記工事自体の必要性は認められる。
原告の査定額の相当性を根拠づける特段の資料は提出されていないが、改修前の和室(改修後の洋室)も併せた額となっていることがうかがわれることから、面積の按分で乗じた額とすべきであるが、被告の主張する単価は同等のクリーニングであることが確認できないことからすれば、被告の主張額も直ちに採用することができない。以上からすると、同工事の工事金額については、民訴法248条を適用し、標記の額とするのが相当である。
シ システムキッチン(材料) 25万円(原告:同左、被告:2万2500円)
前提事実のとおり、本件事故は、上階居室の水道水が漏れたものではあるが、甲2によれば、建物内部を通過したことにより、着色した水となって、本件居室内に漏れたことが認められるから、その原状回復の方法は、単なるクリーニングのみでは足りず、設備の取替えにならざるを得ないというべきである。また、水漏れ事故における部品等の取替えは、既存品の経年劣化を考慮することなく、新品への取替えとなるのが、社会通念に照らし通常の賠償方法であると考えられることからして、中古品相当額とする被告の主張額は採用することができない。そして、本件回答によれば、システムキッチン本体部分の単価として、商品単価が合計62万7100円との見積書が存在することが認められ、そうすると、上記見積書の額を下回る原告の査定額は相当である。
ス その他
前記各項目を除く工事項目等に係る工事金額は、本件査定資料における原告査定額の相当性を疑わせる事情もないから、上記資料に記載の額が相当である。
セ 小計(消費税抜。残取費用を含む。) 188万5605円 (原告:212万5490円、被告:142万5396円)
ソ 小計(消費税込) 203万6453円
■ 東京地判平成28年2月17日(事件番号:平成27年(レ)第723号事件)【※4】について
漏水事故により本件補修工事の全てが必要となったと認められた一方、建物の経過年数や部位の経年劣化を考慮して、本件漏水事故と相当因果関係のある損害額については本件補修工事費用の8割程度と認定した事例
【※4】東京地判平成28年2月17日(事件番号:平成27年(レ)第723号事件)
裁判所の判断の要旨
本件漏水事故による漏水は、303号室の玄関ホールの天井及び壁のプラスターボード並びに玄関ホールの床のパンチカーペットに浸み込み、染みを作ったのであるから、その補修工事として上記各プラスターボード及びパンチカーペットを取り替える必要があったものと認められる。そして、上記プラスターボードの取替えに伴い、プラスターボードの表面のビニールクロス及び壁と床の継ぎ目の部材であるソフト巾木を取り替える必要があったものと認められる。
本件漏水事故により本件補修工事の全てが必要となったと認められる。同工事に要した費用は10万3547円であるが、本件建物は新築から16年が経過しており、その間に303号室の玄関ホールの天井、壁及び床の価値は経年劣化により減少したと解されるから、上記補修工事に要した費用の8割程度を本件漏水事故と相当因果関係のある損害額と認めるのが相当である。
したがって、上記費用のうち8万2837円が本件漏水事故により一審原告に生じた損害の額と認められる。
■ 東京地判令和元年11月11日(事件番号:平成30年(ワ)第8738号・平成30年(ワ)第21673号事件)【※5】について
リフォーム工事から本件事故までの期間が12年余りであり、本件事故により被害を受けたクロス部分については既に耐用年数が経過していた(本件居室のクロスその他の部分が補修工事により新しくなった)として、本件事故と相当因果関係のある損害額は、本件事故による損傷に対する補修工事費用114万3732円の約8割(92万円)と認定した事例
【※5】東京地判令和元年11月11日(事件番号:平成30年(ワ)第8738号・平成30年(ワ)第21673号事件)
裁判所の判断の要旨
本件事故により、本件居室内の①トイレ天井及び同壁面クロスの汚損、②洗面所天井及び同壁面クロスの汚損や剥がれ並びに③玄関通路壁面クロスの汚損や剥がれに加え、④トイレの床フローリングの浮き上がり及び⑤玄関通路の床フローリングの汚損や反りといった被害が生じており、その被害が下地材にも及んでいる。
そして、甲事件原告が上記①ないし⑤の被害の補修工事費用として122万3964円を支払ったこと、そのうちトイレ本体材料費及びこれに関する諸経費の合計額が消費税込みで8万0232円であることが認められる。
本件事故の漏水によってトイレ本体の機能に支障が生じたことが認めるに足りないことからすると、本件事故による損傷に対する補修工事の費用の額は、上記122万3964円から上記8万0232円を控除した額である114万3732円であると認められる。
一方、甲事件原告によるリフォーム工事から本件事故までの期間が12年余りであり、本件事故により被害を受けたクロス部分については既に耐用年数が経過していたところ、本件居室のクロスその他の部分が上記補修工事により新しくなったことが認められ、このことにより本件居室の価額が本件事故の前と比較して何ら増加しなかったものとは認められない。
以上に照らすと、甲事件原告の負担した補修工事費用のうち本件事故との間に相当因果関係のある損害の額は、上記114万3732円の約8割である92万円と認めるのが相当である。
■ 東京地判平成25年12月13日(事件番号:平成23年(ワ)第25266号・平成23年(ワ)第25267号事件)【※6】について
損害賠償制度の趣旨(被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復させること、損害の公平な分担を図ること)からすれば、修繕工事費のうち事故と相当因果関係のある損害は、当該修繕工事が本件事故による被害を回復するために必要かつ相当なものであり、かつ修繕箇所の本件事故当時の時価の限度に限られるという前提のもと、修繕箇所の本件事故当時の時価については267万9520円として、修繕工事費用669万5560円のうち、本件事故と相当因果関係のある損害を267万9520円と認定した事例
【※6】東京地判平成25年12月13日(事件番号:平成23年(ワ)第25266号・平成23年(ワ)第25267号事件)
裁判所の判断の要旨
【修繕工事費について】
原告は、本件事故後、605号室の修繕工事を行い、修繕工事費として、下記のとおりの出捐をしたことが認められる。
建築・電気・設備工事 504万0000円
建築・電気・設備追加工事 38万8500円
照明器具張替塗装工事 7万9590円
敷物工事 63万5470円
工事管理費 55万2000円
修繕工事費合計 669万5560円
【工事の必要性・相当性について】
605号室は、昭和49年11月に新築された後、昭和62年10月に3539万8000円をかけて全面的な内装の改修(リフォーム)工事がされたこと(以下「昭和62年工事」という。)、本件事故後の上記修繕工事では、漏水被害のあった箇所について、必要かつ相当な限度で、天井、床及び壁の解体及び張替え、塗装、壁紙・絨毯の張替え等の工事がされ、原告の請求する修繕工事費は、これらの工事に関するものだけであることが認められる。
【本件事故と相当因果関係のある損害について】
実際の工事費用は、被害のあった部分の修繕について必要かつ相当な範囲で計上されていることが認められる。
しかし、被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復させ、また、損害の公平な分担を図るという損害賠償制度の趣旨からすれば、上記修繕工事費のうち本件事故と相当因果関係のある損害は、当該修繕工事が本件事故による被害を回復するために必要かつ相当なものであって、かつ修繕箇所の本件事故当時の時価の限度に限られると解すべきである。本件事故当時の時価は、本件事故当時に被害を受けた物件と同一の種類、同程度の使用状態の物件を市場において取得するのに要する価額によって定めることができるが、本件のように不動産を修繕したような場合には、市場における取得価格を明らかにすることは困難であるから、過去の取得価格に経年減価を施し、残存価値を算定することにより求めるのが相当である。
もっとも、上記のとおり、昭和62年工事は全面的な改修工事であり、本件事故後の工事は漏水により被害のあった部分について行われたものであるから、昭和62年工事のうち、どの部分が本件事故後の工事に対応するかは明らかではなく、昭和62年工事のうち、本件事故後の工事に対応する部分の残存価値を直接算定することはできない。そこで、本件においては、昭和62年工事のうち本件事故後の工事に対応する部分の費用は、本件事故後の工事費用と同額であり、この費用の分だけ605号室の価値が増加したと考えた上で、その額に経年減価を施した額をもって残存価値と評価するのが相当である。
【本件事故当時の残存価値の評価について】
605号室については、新築された昭和49年11月から13年が経過した昭和62年10月に昭和62年工事がされ、その後、本件事故(平成23年3月11日発生)まで23年以上が経過している。そして、税務上、本件マンションの耐用年数は47年であり(住宅用鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造建物。甲45)、建物の内部造作物については建物附属設備に該当する場合を除き、区分しないで当該建物の耐用年数が適用される(減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一、耐用年数の適用等に関する取扱通達第1章第2節3)。
ただし、建築・電気・設備工事及び同建築・電気・設備追加工事のうち、壁、天井クロスについての工事(32万1500円)及び給排水衛生設備工事(クロス張替えに伴う便器脱着)(5万2000円)並びに照明器具張替塗装工事(7万9590円)及び敷物工事(63万5470円)の合計108万8560円については、数年ごとに張替えや交換を要するものに係る工事であるし、建築・電気・設備工事及び同建築・電気・設備追加工事のうち電気設備工事(14万円)及び空調換気床暖房設備工事(23万5000円)については建物附属設備工事に該当し、税法上、耐用年数が13年ないし15年とされる(耐用年数の適用等に関する取扱通達第1章第2節3)から、いずれも本件事故当時耐用年数が経過しており、本件事故当時の残存価値はこれらの工事の合計額(146万3560円)の10%である計14万6356円であったと認めるのが相当である。そして、工事管理費は、工事費の9%として算定されているから、上記各工事に対応する部分の工事管理費としては、1万3172円のみが認められる。
修繕工事費(工事管理費を除く)から上記各工事の合計額を控除した残額は、468万円であるところ(6143560-1463560=4680000)、これらの工事の耐用年数は47年で、23年が経過したから、残存価値は、231万1920円となる(4680000-4680000×0.022×23=2311920)。そして、この部分に対応する工事管理費は20万8072円となる(2311920×9%=208072)。
【結論】
以上によれば、修繕箇所の本件事故当時の時価は、上記の合計である267万9520円となるから、修繕工事費用669万5560円のうち、本件事故と相当因果関係のある損害は、267万9520円と認めるのが相当である。
■ おわりに
現実問題として、漏水事故に関しては、賠償すべき損害の額を容易に認定することはできません。
加害者ないし第三者が、被害者側に対し、誤解(過度な期待)を与えるような回答(言動)をしてしまったためにトラブルが拡大してしまうケースが少なくありませんので、注意が必要です。
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