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区分所有法57条の規定とマンション標準管理規約(団地型)77条の規定との関係

  • @lawyer.hiramatsu
  • 11 分前
  • 読了時間: 18分

 今回は以下のような質問について検討します。

 私(X)は、2棟の建物(A棟とB棟)の区分所有者全員によって組織される団地管理組合(非法人)の理事長です。
 当団地管理組合の管理規約は、マンション標準管理規約(団地型)(令和6年6月7日改正版)と同じような内容になっています。
 当団地管理組合の組合員(「Yさん」といいます。)は当団地管理規約12条【※1】に違反する行為を行っています。
 当団地管理組合は、Yさんに対し、管理規約77条1項【※2】に基づく勧告等を行ってきましたが、Yさんは「規約には違反していないし、共同利益背反行為もない。」と反論しています。Yさんの反論は、区分所有法57条【※3】【※4】を意識してのものだと思いますが、当団地管理組合としては、Yさんの行為はそもそも管理規約12条に違反するものと考えています。
 当団地管理組合としては、管理規約77条3項【※2】の規定に基づき、Yさんに対し行為の差止め等の訴訟を提起したいのですが、その訴訟提起については「理事会の決議」を経ることで足りるでしょうか。また、管理規約77条3項の規定に基づき訴訟提起する場合、理事長(X)が、団地管理組合代表者としてではなく、団地管理組合の管理者として訴訟提起することはできるでしょうか。

 【※1】マンション標準管理規約(団地型)12条

(専有部分の用途)
第12条 団地建物所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
2 団地建物所有者は、その専有部分を住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)第3条第1項の届出を行って営む同法第2条第3項の住宅宿泊事業に使用してはならない。

 【※2】マンション標準管理規約(団地型)77条

(理事長の勧告及び指示等)
第77条 団地建物所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「団地建物所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその団地建物所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 団地建物所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 団地建物所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は団地建物所有者等若しくは団地建物所有者等以外の第三者が土地、団地共用部分及び附属施設において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
 一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
 二 土地、団地共用部分及び附属施設について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、団地建物所有者のために、訴訟の原告又は被告になること、その他法的措置をとること
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 理事長は、第3項の規定に基づき、団地建物所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、団地建物所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第45条第2項及び第3項の規定を準用する。

 【※3】区分所有法57条

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

 【※4】区分所有法6条1項

(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2~4(略)

■ はじめに


 ご質問の件(以下「本件」といいます。)について、はじめに結論だけを述べると以下のようになります。

(結論)

 区分所有法57条の規定に基づき行為の差止め等を求める訴訟を提起するためには、Yさんの部屋(専有部分)が存在する棟の総会(以下「棟総会」といいます。)の決議が必要ですが、管理規約77条3項の規定に基づき行為の差止め等を求める訴訟を提起する場合には、規約に定める「理事会の決議」で足ります。ただし、後者の場合には団地総会の決議を経ておくことをおすすめします。

 管理規約77条3項の規定に基づき訴訟提起する場合に、理事長が団地管理組合の管理者として訴訟提起することは可能と考えます。


■ 解説


(1)区分所有法57条に基づく請求


 本件の背景として、「区分所有法57条の規定とマンション標準管理規約(団地型)77条の規定は矛盾しないのか?」といった疑問があるのかもしれませんが、結論としては矛盾しません。この点は、単棟型マンションを例に解説した下記サイト(区分所有法57条とマンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定の関係(2014/2/25))をご参照ください。


 区分所有法57条とマンション標準管理規約(単棟型)第67条の規定の関係(2014/2/25)・・・


 仮に、区分所有法57条【※3】の規定に基づく差止め等の訴訟を提起するのであれば、団地総会【※5】の決議【※6】ではなく、棟総会【※7】の決議【※8】【※9】が必要です。すなわち、その棟の区分所有者で組織する棟総会の決議(議決権総数の半数以上を有する区分所有者が出席する会議において、出席区分所有者の議決権の過半数で決する)が必要です。

 仮に、団地総会【※5】の決議【※6】があったとしても、その決議は、区分所有法57条に定める集会の決議とは認められません(東京地裁令和5年5月25日判決【※10】参照)。


 【※5】マンション標準管理規約(団地型)44条

(団地総会)
第44条 管理組合の団地総会は、総組合員で組織する。
2 団地総会は、通常総会及び臨時総会とする。
3 理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後2か月以内に招集しなければならない。
4 理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時総会を招集することができる。
5 団地総会の議長は、理事長が務める。

 【※6】マンション標準管理規約(団地型)49条

(団地総会の会議及び議事)
第49条 団地総会の会議(WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む。)は、前条第1項に定める議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。
2 団地総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
3~12(略)

 【※7】マンション標準管理規約(団地型)68条

(棟総会)
第68条 棟総会は、区分所有法第3条の集会とし、○○団地内の棟ごとに、その棟の区分所有者全員で組織する。
2 棟総会は、その棟の区分所有者が当該棟の区分所有者総数の5分の1以上及び第71条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる区分所有者の同意を得て、招集する。
3 棟総会の議長は、棟総会に出席した区分所有者(書面、電磁的方法又は代理人によって議決権を行使する者を含む。)の議決権の過半数をもって、当該棟の区分所有者の中から選任する。

 【※8】マンション標準管理規約(団地型)72条2号

(議決事項)
第72条 次の各号に掲げる事項については、棟総会の決議を経なければならない。
 一 区分所有法で団地関係に準用されていない規定に定める事項に係る規約の制定、変更又は廃止
 二 区分所有法第57条第2項、第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起及びこれらの訴えを提起すべき者の選任
 三~六(略)

 【※9】マンション標準管理規約(団地型)73条2項1号

(棟総会の会議及び議事)
第73条 棟総会の議事は、その棟の区分所有者総数の4分の3以上及び第71条第1項に定める議決権総数の4分の3以上で決する。
2 次の各号に掲げる事項に関する棟総会の議事は、前項にかかわらず、議決権総数の半数以上を有する区分所有者が出席する会議において、出席区分所有者の議決権の過半数で決する。
 一 区分所有法第57条第2項の訴えの提起及び前条第二号の訴えを提起すべき者の選任
 二、三(略)
3~8(略)

 【※10】東京地裁令和5年5月25日判決の要旨(判例時報2609号33頁参照)

【区分所有法57条に基づく請求について】
 本件管理組合は、区分所有法65条に定める団地建物所有者の団体であるところ、同法66条は、同法6条及び57条を準用していないから、原告は、同法57条に基づき同法6条1項に規定する行為の停止等を求めることはできない。
 原告は、本件住宅の●号棟と●号棟は歴史的にも実質的にも一体性をもって管理運営されてきたのであり、実質的にも区分所有者が相互に密接な関係を持たなければならないという事情を有していたのであるから、区分所有法57条の適用は認められる旨主張するが、独自の見解をいうものであって採用することはできない。

(2)管理規約77条の規定に基づく請求


 管理規約77条3項柱書及び同項1号によれば、理事長が管理組合を代表し、規約等違反行為の差止め等の請求に関し訴訟追行するためには理事会の決議を経る必要があると定められています。他方で、その訴訟追行について総会決議を必要とする旨の規約の定めは見当たりません。

 そうすると、管理規約77条3項の規定に基づき行為の差止め等を求める訴訟を提起する場合、基本的には「理事会の決議」で足ります。

 ただし、被告(Yさん)側から、「区分所有法57条2項の規定は強行規定であるから、管理規約77条に基づく差止め請求についても理事会の決議だけで足りない」旨主張(反論)されることが容易に想定されます(『コンメンタール マンション区分所有法(第3版)』稻本洋之介・鎌野邦樹著(日本評論社、2015年)330頁参照)。

 そこで、団地管理組合側としては、団地総会の決議も経ておく(弁護士費用支出に関する決議も経ておく)ことをおすすめします。


 なお、管理規約77条3項のような規定の有効性や所要の決議が争点となった事案として、東京地裁令和5年5月25日判決【※11-1】(その控訴審である東京高裁令和6年1月11日判決【※12】)があります。

 同判決の事案の管理規約の規定は、標準管理規約の規定とは少し異なりますので注意が必要です。同事案の管理規約の71条3項柱書【※11-2】、同項1号【※11-3】及び71条4項【※11-4】は後記のとおりです。


 【※11-1】東京地裁令和5年5月25日判決より(要旨)

【本件管理規約71条3項1号、4項に基づく請求について】
 本件住宅における区分所有法上の規約である本件管理規約は、理事長を区分所有法に定める管理者とした上、区分所有者等が共用部分等において不法行為を行った場合に、理事長に行為の差止め、原状回復のための必要な措置等の請求に関する訴訟追行権を付与し(71条3項1号)、請求の相手方に対して弁護士費用等を請求することができる(同条4項)ことを定めている。
 これらの本件管理規約の規定は、区分所有法上の管理者は、①規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負い、②規約により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる旨を定めた区分所有法26条1項及び4項(同法66条で団地建物所有者の団体に準用される。)に基づき定められているものと解され、いずれも有効なものと認めるのが相当である。
 被告らは、区分所有法であえて準用しなかった規定を管理規約で定めたとしても、そのような規約を有効とするような特別な事情はないから、本件管理規約71条は無効である旨主張する。
 そこで検討するに、本件管理規約71条は、義務違反行為に対し、区分所有法58条・59条に定める専有部分の使用禁止や区分所有権等の競売といった制裁を定めるものでない点で、区分所有法上の措置とは異なっている。
 そして、区分所有法66条が同法6条や同条1項の義務違反者に対する措置に関する57条ないし59条を準用していないのは、これらの規定により義務違反者に対してその者の財産の使用禁止や競売まで請求し得ることが、1棟の建物内において区分所有者が相互に密接な関係を持たざるを得ないことを根拠としており、その趣旨を一団地内に数棟の建物がある団地建物所有者の団体の場合にも及ぼすのが相当でないためと解される。
 そうすると、区分所有法が本件管理規約71条3項1号及び4項に定める効果にとどまる措置を、団地内の実情に応じて規約に定めることを許さない趣旨であるとまでいうことはできず、上記各規定が区分所有法の趣旨に反し無効であるということはできない。

【所要の決議の有無について】
 本件管理規約71条3項柱書は、不法行為の差止め等の請求に関し訴訟追行するために、評議員会の決議を要する旨定めているところ、本訴の提起について評議員会の決議を了しているから、管理総会の承認の有無に関わらず、上記要件は充たされている。

 【※11-2】71条3項柱書

 区分所有者(本件住宅の団地建物所有者をいう。)等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が土地、共用部分及び附属施設において不法行為を行ったときは、理事長は、評議員会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。

 【※11-3】同項1号

 一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること

 【※11-4】71条4項

 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。

 【※12】東京高裁令和6年1月11日判決より(要旨)

 控訴人(原審被告)らは、本件管理規約37条4項は、区分所有法57条2項を提起するには、棟総会(本件住宅の各棟における議決権の半数以上が出席する棟ごとの集会)の決議を要するものとしているが、本件訴訟の提起につき棟総会の決議はされておらず、区分所有者の共同の利益に反する行為の停止等の請求に係る訴訟提起に集会の決議を必要とする区分所有法57条2項の規定は強行規定であることからすると、本件管理規約71条に基づく差止め請求についても、評議員会の決議だけで訴訟を提起することはできないと主張する。
 しかし、区分所有法は、6条1項において、区分所有者は建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない旨の一般的義務を定め、57条1項において、この義務に対応する団体的な権利としての差止請求権を定め、同条2項において、その権利を訴訟により行使するかどうかの意思決定は集会の決議によるべきことを定めたものである。同条の規定は、これとは別に、区分所有者の団体が実情に応じて内部規範である規約において区分所有者が遵守すべき義務をそれぞれに定め、その義務に違反する行為に対する差止請求権及びその訴訟追行要件について、同条の規定とは異なる定めを置くことを許さないものであるとは解されない。本件管理組合のような相当多数の団地建物所有者により構成される団体において、管理総会・棟総会のほかに常任委員会・評議員会を置き、規約違反等の行為があったときにその是正のために訴訟を提起するか否かの意思決定は評議員会の決議によるものとすることには、機動的な対応を可能とする点で合理性が認められるというべきであり、規約違反行為や共用部分における不法行為に対する差止請求訴訟の提起に係る意思決定は評議員会の決議によるべきことを定めた本件管理規約71条3項の規定の効力を否定すべき理由はない。

【被控訴人(原審原告)の訴訟追行権限について】
 本件管理規約は、理事長が本件管理組合を代表し、区分所有法に定める管理者となると定めている。そして、本件管理組合は、本件管理規約の定めがあるなど、権利能力のない社団(民訴法29条)の実質を有していると認められる。一方、区分所有法は、管理者は、規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負い(26条1項)、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる(同条4項)と定めている。したがって、本件管理組合の理事長は、区分所有法57条1項に基づく差止請求と同様に、団体的な権利の行使である本件管理規約71条3項1号に基づく差止請求及び同条4項に基づく違約金としての弁護士費用の支払請求について、民訴法29条に基づき、本件管理組合が原告となる訴訟をその代表者として提起し追行することができるとともに、区分所有法に定める管理者として、同法26条4項に基づき、本件住宅の他の団地建物所有者の全員のために、自らが原告(訴訟担当者)となって訴訟を提起し追行することができるものと解される。
 なお、本件管理規約71条3項(マンション標準管理規約(団地型)77条3項の規定に同じ。)は、1号において、理事長が管理組合を代表して差止請求等の訴訟を追行することができるとし、2号において、理事長が区分所有者のために損害賠償請求等の訴訟の原告になることができるとしているが、上記のとおり、本件管理組合の理事長は、区分所有法26条4項で定められた管理者の訴訟追行権限に基づき、本件管理組合の管理者として、本件住宅の他の団地建物所有者の全員のために、自らが原告(訴訟担当者)となって、規約で定められた管理者の職務に関する訴訟を提起し追行できるものである。本件管理規約71条6項は、理事長が同条3項の規定に基づき区分所有者のために原告となった場合における区分所有者の通知義務を規定するに当たり、同項2号の規定に基づく場合のみに限定していないことに照らしても、本件管理規約71条3項の規定は、同項1号の差止請求について、本件管理組合の理事長が管理者として自ら原告となって訴訟を追行する権限を排除する趣旨であるとは解されない。同号において、理事長が管理組合を代表して差止請求等の訴訟を追行することができるとしているのは、理事長が同号に基づく法的措置を追行する方法を例示したものにすぎないと解するのが相当である。

■ おわりに(区分所有法57条に基づく請求の訴訟提起についての補足)


(1)補足1

 団地関係には、区分所有法57条から60条の規定の準用がありません(区分所有法66条参照)。そのため、区分所有法57条から60条の規定に基づく請求を検討する場合には、棟総会の決議(区分所有法57条の場合は普通決議、同法58条から60条の場合は特別決議)が必要です。

 本件の被告となるべきYさんがB棟の区分所有者である場合、B棟の棟総会決議が必要であり、原告となるのは「管理者又は集会において指定された区分所有者」となります(区分所有法57条3項【※3】)。


(2)補足2

 標準管理規約上、理事長は、団地建物所有者の団体(団地管理組合)の代表者であり、その団体の管理者です(区分所有法65条)。その団体の管理者については、区分所有建物の管理者に関する規定(区分所有法25条、26条、28条、29条)が準用されます(区分所有法66条)。

 区分所有法66条後段の規定による読み替えをすると、区分所有法25条、26条、28条及び29条は次のような内容になります。


(選任及び解任)
第25条 第65条に規定する団地建物所有者(注:以下単に「団地建物所有者」と記載します。)は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各団地建物所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

(権限)
第26条 管理者は、土地等並びに第68条の規定による規約により管理すべきものと定められた同条第1項第1号に掲げる土地及び附属施設並びに同項第2号に掲げる建物の共用部分(次項及び第47条第6項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、団地建物所有者を代理する。第18条第4項(第21条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第2項後段に規定する事項を含む。)に関し、団地建物所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、団地建物所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第35条第2項から第4項までの規定を準用する。

(委任の規定の準用)
第28条 この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。

(団地建物所有者の責任等)
第29条 管理者がその職務の範囲内において第三者との間にした行為につき団地建物所有者がその責めに任ずべき割合は、土地等(これらに関する権利を含む。)の持分の割合と同一の割合とする。ただし、規約で土地等並びに第68条の規定による規約により管理すべきものと定められた同条第1項第1号に掲げる土地及び附属施設並びに同項第2号に掲げる建物の共用部分の管理に要する経費につき負担の割合が定められているときは、その割合による。
2 前項の行為により第三者が団地建物所有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行うことができる。

(3)補足3(発展質問)

 XさんがA棟の区分所有者であり、被告となるべきYさんがB棟の区分所有者である場合を前提として、次の質問について考えてみましょう。


 質問①・・・マンション標準管理規約(団地型)(令和6年6月7日改正版)と同じような内容となっている規約の場合、Xさん(団地管理組合の理事長)を、B棟の区分所有者の団体(区分所有法3条の団体)の管理者であるとみることはできませんか。


 回答①・・・マンション標準管理規約(団地型)の「第68条関係」のコメント「③」には「各棟においては、日常的な管理は行わず、管理者は選任しないことから、棟総会は、区分所有法第34条第5項の規定に基づき、招集することとしている。」とありますので、その規約は、各棟の管理者を選任しないことを前提に組み立てられています。したがって、Xさん(団地管理組合の理事長)を、B棟の区分所有者の団体(区分所有法3条の団体)の管理者であると直ちにみることはできません。


 質問②・・・団地管理組合の理事長を、各棟の区分所有者の団体(区分所有法3条の団体)の管理者とすることは可能ですか。


 回答②・・・可能です。区分所有法は、管理者の被選任資格を区分所有者に限定していないためです。ただし、現に存在する管理規約全体の見直し(改正)も必要となると思われますので注意してください。


 質問③・・・B棟の集会決議をもってXさん(A棟の区分所有者)を「集会において指定された区分所有者」とすることはできますか。


 回答③・・・XさんはB棟の区分所有者ではないため、Xさんを「指定された区分所有者」とすることはできないと考えます。




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