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@lawyer.hiramatsu

マンション管理:管理組合と自治会との関係(東京高裁令和5年5月17日判決をもとに)

更新日:2023年12月13日

 今回は以下のようなご質問について検討します。

 私はマンション管理会社の担当者(いわゆるフロントマン)です。
 令和5年5月17日東京高裁にて、管理組合と自治会費に関する判決が出ています。私も、その判決の内容を読みましたが、よく分かりません。上訴審(最高裁)の判断はまだ出ていないようですが、とりあえず上記判決を前提に、管理会社担当者として注意しておくべき事項を教えてください。

■ はじめに


 東京高裁令和5年5月17日判決の【事案の概要】及び【結論】は以下のとおりです。

 なお、実際は、団地管理組合に関する事案ですが、ここでは団地であることを無視して、あえて単純化しています。


 【事案の概要】

 マンションの区分所有者であるXが、管理組合Yに対し、「Yが団体として自治会に加入して管理費から自治会費を支出することは、管理組合の目的の範囲を超えるものである」などと主張して、①Yの管理規約中、その旨を定めた規定及びYが自治会を脱退する場合には総会の特別決議を経る旨を定めた規定【※1】がいずれも無効であることの確認を求め、②Yが令和2年4月26日及び令和3年4月25日に開催した各定期総会において、管理費から自治会費を支払う内容の予算案を承認した各決議がいずれも無効であることの確認を求め、③Xが自治会から退会した日以降にYに支払った管理費のうち自治会費相当額は不当利得に当たると主張して、不当利得返還請求権に基づき、上記自治会費相当額5199円の支払を求めた。

 【結論】

 東京高裁は、上記①②の確認請求については棄却し、上記③の不当利得返還請求については認容した。

 【※1】当該規定(本件規約90条)の内容

 Yは、地域コミュニティとの交流により良好な住環境を確保するため、本件自治会に団体として加入し、管理費から自治会費を本件自治会に支払うものとする(1項)。Yは、本件自治会へ団体として加入しているため、本件自治会から脱退する場合には全体総会の特別決議を経るものとする(2項)。

■ 東京高裁令和5年5月17日判決の判断について


 上記のとおり、東京高裁令和5年5月17日判決は、無効確認請求を棄却し、不当利得返還請求について認容しています。

 前提として、本件自治会には会則があり、その会則において「本件自治会への入会は、本件各マンションの居住者又は区分所有者が入会届を提出することにより入会することができ、退会届を提出することによって退会することができる。」と定められていました。管理組合Yは、本件自治会の設立後、本件規約90条1項【※1】に基づき、本件自治会に加入し、以後、毎年、本件自治会に自治会費を支払っており、他方、本件自治会は、管理組合Yから支払われる自治会費のほかに、会員である本件マンションの居住者又は区分所有者から個別に自治会費を徴収していませんでした。

 Xは、本件マンションの区分所有者として本件自治会に加入していましたが、平成28年5月下旬、退会届を提出することにより本件自治会を退会しています。

 他にも色々な背景事実がありますが、ここでは、東京高裁の判断の要旨を挙げておきます。


 【東京高裁の判断の要旨】

① 管理組合は、その規約において、建物等の管理又は使用に関する事項を定めることができる。ここにいう「管理」は、団体的意思決定に服すべきものとされる対象事項を広く包摂するものであるところ、管理組合の当該業務がその目的の範囲内のものかどうかは、社会通念に照らし、建物等の使用のため建物所有者が全員でこれを行うことの必要性、相当性に応じて判断すべきである。
② 管理組合の性質からすれば、マンションの管理に関わりのない活動を行うことは適切ではない。例えば、一部の者のみに対象が限定されているクラブやサークル活動、主として親睦を目的とする飲食は、マンションの管理業務の範囲を超え、マンション全体の資産価値向上に資するともいい難いため、建物所有者全員から強制徴収する管理費をこれらの費用に充てることは適切ではない。
③ 本件自治会は、Yにおいてマンションの管理を行うために必要かつ有益な活動を行う団体であるということができる。そうすると、Yが団体として本件自治会に加入し、自治会活動に要する費用を支出することは、管理組合の目的の範囲内のものというべきである。本件自治会の他の活動に、上記目的の範囲に含まれないものがあるとしても、このことをもって、Yが本件自治会に加入することが直ちに管理組合の目的の範囲を逸脱するものであるということはできない。
④ 本件自治会は、納涼祭、バーベキュー大会、ラジオ体操、バスツアー、クリスマス点灯式等のイベント(催事)を行うとともに、コミュニティクラブの活動に対して補助金等を交付している(以下、これらの活動を「イベント等活動」という。)。本件自治会の支出の大半がイベント等活動の費用に充てられている。
⑤ 本件自治会のイベント等活動を含む活動費用の大半は、Yから支払われる自治会費によってまかなわれている。そして、こうしたイベント等活動は、専ら地域住民の親睦を図ることを目的とするものであって、かつイベントの参加者又はクラブの加入者という一部の者のみが利益を享受するものであることから、任意加入の地縁団体である自治会固有の活動というべきである。そのような活動に要する費用を管理組合が自治会費として負担することは、任意加入の地縁団体である自治会の活動と、区分所有者によって構成される強制加入の団体である管理組合の業務を混同するものというべきである。
⑥ 本件自治会のイベント等活動は、管理組合であるYの目的の範囲を超える疑いのあるものであり、Yが本件自治会にこれらを委託し、その対価を支払うことは、本来許されないものといわざるを得ない。
⑦ 本件の実態に照らすと、Yが本件マンションの区分所有者から自治会費を管理費に含めて代行徴収しているとみることができる。
⑧ Yが本件マンションの区分所有者から自治会費を代行徴収することは、各区分所有者において別途個別に自治会費を本件自治会に納付する手間等を考慮すると、区分所有者の共同の利益に資するものということができるから、上記の代行徴収の事務は、管理組合の目的の範囲内のものということができる。
⑨ 本件のように、管理組合が自治会費を管理費と一体で徴収している場合には、自治会への加入を強制するものとならないようにするとともに、自治会への加入を希望しない者から自治会費の徴収を行わないよう配慮する必要がある。Xが本件自治会から退会したにもかかわらず、それ以降も、YがXから自治会費相当額を管理費に含めて徴収することは、実質的に本件自治会からの退会の自由を制限するものというべきであるが、後記のとおり、Xは、Yに対し、上記退会後に支払った管理費のうち自治会費相当額については不当利得として返還を求めることができるというべきであるから、Yが本件自治会に対し自治会費の支払をしたことが違法であるということはできない。
⑩ Yが本件規約において自治会に団体として加入し、管理費から自治会費を支払うこと等を定めた本件各条項及び定期総会において管理費から自治会費を支払う内容の予算案を承認した本件各決議は、いずれも無効であるということはできない。
⑪ Yは、本件細則に基づいて、本件自治会に対する業務委託の対価として、自治会費を支払っていたものであるが、その実態からすると、本件マンションの区分所有者から自治会費を管理費に含めて代行徴収していたというべきである。そうすると、Xが本件自治会から退会したにもかかわらず、それ以降もYがXから自治会費相当額を管理費に含めて徴収することは、Xにおいて任意団体である本件自治会から退会する自由を実質的に制限することになり、法律上の根拠を欠くものであるというべきである。したがって、YがXの本件自治会からの退会後にXから徴収した管理費のうち自治会費相当額は、不当利得に当たる。
⑫ Yが主張する本件自治会との委託関係は、本件自治会が行う活動のうち、管理組合であるYの目的の範囲内に含まれるものとそうでないものとの区別が適切に行われているとはいい難いものであり(なお、本件自治会の支出においては、同目的に含まれない活動に関するものが大半を占めている。)、これに基づく委託費用としての自治会費の支払は、全体的に正当化することができないものであるところ、その実態から、Yが自治会費相当額を管理費に含めて代行徴収しているとみるべきことは前記のとおりである。
⑬ 自治会を退会した者が引き続き当該地域に居住することに伴い、自治会の活動によって事実上利益を享受することがあるとしても、自治会費を支払う義務はない。
⑭ Xが平成28年5月に本件自治会から退会した後にYに対して支払った管理費のうち、自治会費相当額について、各年度のYの管理費収入総額に占めるXの管理費の割合を、Yが支出した自治会費に乗じる方法により算定すると、次のとおりとなり、その合計は5199円である。
 ア 平成29年度(同年2月1日~平成30年1月31日)
 (Xの管理費21万1680円(月額1万7640円)/Yの管理費収入総額3億4837万3080円×Yの自治会費の支出額232万円=1409円
 イ 平成30年度(同年2月1日~平成31年1月31日)
 (Xの管理費21万1680円/Yの管理費収入総額3億4837万3080円)×Yの自治会費の支出額160万円=972円
 ウ 令和元年度(同年2月1日~令和2年1月31日)
 (Xの管理費21万1680円/Yの管理費収入総額3億4837万3080円)×Yの自治会費の支出額232万円=1409円
 エ 令和2年度(同年2月1日~令和3年1月31日)
 (Xの管理費21万1680円/Yの管理費収入総額3億4837万3080円)×Yの自治会費の支出額232万円=1409円

■ 注意しておくべき事項


 ひとまず東京高裁令和5年5月17日判決を前提として注意しておくべき事項を述べておきます。なお、上記判決に関しては、改めて、最高裁平成17年4月26日判決、東京簡裁平成19年8月7日判決、東京高裁平成19年9月20日判決、東京高裁平成24年5月24日判決、東京高裁令和4年3月9日判決(原審:東京地裁令和3年9月9日判決)と対比させながら論評したいと思います。


 【注意しておくべき事項】

① 管理組合(強制加入の団体)と自治会(居住者が任意加入する地縁団体)が併存している場合には注意が必要です。両者は性質が異なります。これらの団体を混同しないようにしなければなりません。
② 自治会会員が自治会(任意加入団体)を退会した場合、その人は自治会費を支払う義務がありません。管理組合が自治会費を代行徴収している場合、その人からは自治会費を徴収することができなくなります。
③ 管理組合が自治会費を代行徴収している場合、その額が明確であれば、自治会退会者からその額を徴収しないようにすれば足ります。しかし、仮に、東京高裁令和5年5月17日判決の事案のような場合(共有持分に応じて負担しているといえる場合)には計算が面倒となってしまいますので注意が必要です(上記【東京高裁の判断の要旨】の⑭参照)。

 

 

 


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