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@lawyer.hiramatsu

マンション共用部分の工作物責任(管理組合の占有者該当性)について

■ はじめに


 工作物責任(民法717条1項)との関係におけるマンション共用部分の占有者については、2021年12月26日付の記事で裁判所の判断の傾向を紹介しました。


 区分所有者全員が「占有者」として賠償責任を負うべき場合、その賠償責任の履行について、規約の定め又は集会の決議により管理組合としてなすことが可能かどうかに関しては、2024年4月23日付け記事で私見を述べました。


 ところで、2024年4月23日付け記事の中で、東京地判令和4年12月23日【※1】及び東京地判令和4年12月27日【※2】を紹介していますが、これらの判決で示された裁判所の判断は、他の裁判所を拘束するような通用力を有するものではありませんので、注意が必要です。


 今回は、念のため【※1】及び【※2】の判決について補足説明しておきます。


 【※1】東京地判令和4年12月23日(事件番号:平成28年(ワ)第41727号)

 管理組合が「占有者」に当たるとされた一方、区分所有者は占有者責任を負わないとされた事案


 裁判所の判断の要旨

 民法717条1項は、土地工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときに第一次的に責任を負う者を「占有者」と定めている。その趣旨は、「占有者」が、損害の発生を防止するのに必要な注意を直接払うことができる地位にあるからであると解されることからすると、ここにいう「占有者」とは、被害者に対する関係で当該工作物を支配管理し又はすべき地位にあるものをいうと解するのが相当である。
 区分所有法上、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための管理団体を構成し、当該管理団体が区分所有物の共用部分を管理することが予定されており(区分所有法3条、18条)、また、被告管理組合は、その規約において、本件排水管を含む共有物の維持、修理、取替え等の管理を業務として行うこととし、実際にも、被告管理組合の管理費用をもって、排水管の定期点検、清掃、修繕等を実施していた。これらの事情に照らせば、被告管理組合は、本件排水管を支配管理していたというべきであり、したがって、民法717条1項にいう「占有者」に当たると解するのが相当である。
 そして、本件排水管が本件マンションの工作物であるところ、本件排水管が老朽化のため腐食していたことにより平成27年11月初旬事故が発生しており、本件排水管の管理に瑕疵があったことは明らかである。
 したがって、被告管理組合は、本件排水管について、民法717条1項本文に基づく占有者責任を負う。

 共有部分である本件排水管を管理しているのは管理団体である被告管理組合であり、管理者である者はその機関にすぎないから民法717条1項にいう「占有者」には当たらない。
 また、その管理者は区分所有者でもあるが、本件排水管の「占有者」として、その設置又は管理の瑕疵について一次的に責任を負うのは被告管理組合であるから、その管理者(区分所有者)は、民法717条1項本文に基づく占有者責任を負わない。

 【※2】東京地判令和4年12月27日(事件番号:令和元年(ワ)第13244号)

 区分所有者全員が「占有者」であるとされた一方で、管理規約の規定を根拠として管理組合も民法717条1項本文に基づく損害賠償債務を履行する責任を負うとされた事案

 なお、被害者も共用部分の持分を有する区分所有権者であることから、被害者から管理組合に対する請求については、その被害者の持分に相当する額を控除した額(①)が認容されており、また、被害者から特定の区分所有者に対する請求については、上記①のうち当該特定の区分所有者の持分の限度で認容(管理組合とは連帯)とされている。


 裁判所の判断の要旨

 瑕疵は躯体部分に認められるところ、本件規約上、本件建物の主体構造部は共用部分に含まれることが認められることからすれば、瑕疵が認められる部分の占有者は、当該部分を共有する本件建物の区分所有者全員であるということができる。
 本件建物の北側外壁のコンクリート躯体部分は、本件建物の区分所有者全員が占有しているものであり、その部分に存する隙間ないし亀裂を放置している以上、占有者である本件建物の区分所有者全員に保存の瑕疵があるものといわざるを得ない。そうすると、本件建物の区分所有者全員が、原告に対し、不真正連帯債務の形で民法717条1項本文に基づく損害賠償債務を負うものと解すべきである。
 区分所有建物の区分所有者が、区分所有者全員からなる組合を構成する目的には、区分所有建物の共有部分の管理・修繕のみならず、権利関係が複雑化することを防ぐべく、共用部分の使用により生じる権利義務関係の処理を組合に一本化することがあると考えられ、当該目的を達成するために、区分所有建物の区分所有者は、集会での決議や組合の管理規約において、その方法や範囲を定めるものであると解される。そうすると、区分所有建物の区分所有者全員からなる管理組合の管理規約に、同組合が共用部分を管理し、その修繕を同組合の負担において行う旨の定めがあるときは、この定めは、区分所有者全員が、同組合に対し、共用部分の保存の瑕疵により第三者が損害を被った場合に発生することとなる民法717条1項に基づく損害賠償債務について、それを履行する権限を付与するという趣旨を含むものと解するのが相当である。
 本件規約31条は、被告組合がその管理する共用部分の修繕を行うものとし、20条は、共用部分の管理を被告組合がその負担においてこれを行う旨を定めていることが認められるところ、これらの定めによれば、共用部分の管理・修繕は、被告組合の負担においてこれを行うものとされ、負担の時期及び負担額に制限を設けていない。以上からすれば、被害者が本件建物の区分所有者に対して共用部分の工作物責任に基づく損害賠償債務の履行を求めた際に、被告組合が当該債務全額を履行する権限を付与されたものと認めることができる。そうすると、原告は、区分所有者全員が占有する共用部分の設置管理の瑕疵により生じた本件事故に関し、被告組合に対して民法717条1項本文に基づく損害賠償請求をすることができるものと解すべきである。
 本件事故の原因箇所は共用部分であるコンクリート躯体部分の隙間ないし亀裂であり、保存の瑕疵があったということができることからすれば、被告組合は、原告に対し、民法717条1項本文に基づいて、本件事故と相当因果関係のある損害につきその賠償義務を履行する義務を負うものというべきである。

 原告自身も共有者(区分所有者の1人)であるが、民法717条1項にいう「他人」には該当する。当該共有者も持分の限度で損害を負担すべきではあるものの、他の共有者に対して同項に基づく請求そのものが妨げられることはない。

 本件建物の区分所有者の被告組合に対する債務の履行権限の付与は、区分所有者個人に対する請求を妨げるものではないと解される。
 他方で、民法717条1項本文に基づく区分所有者全員の損害賠償債務は不真正連帯債務であるところ、本件のように、区分所有建物の保存の瑕疵に基づく損害賠償請求がなされるとき、請求者が当該建物の区分所有者である場合には、その者は、債権者であると同時に不真正連帯債務者という立場におかれる。このような場面は、連帯債務者が一旦全ての債務を履行し、他の連帯債務者に対して求償権を行使する場面と類似するから、当該請求者から他の区分所有者に対する上記債務の請求は、当該他の区分所有者の負担割合(持分)の限度でなすことができるにとどまるものと解するのが相当である。

■ 【※1】の判決について


 【※1】の判決は、共用部分たる排水管について、民法717条1項本文に基づく占有者責任を負うのは管理組合であるとしています。

 なお、同判決については、被害者(一審原告)側が控訴しましたが、一審被告管理組合側は控訴していません。

 一般論として思うに、管理組合側としては、仮に管理組合の占有者責任を免れたとしても、その代わりに全区分所有者が占有者責任を負うことになるのであれば、管理組合の占有者該当性を積極的に争うことは得策ではないようにも思えます。むしろ、管理組合側としては、管理組合の占有者該当性が認められたほうが、円滑な訴訟追行や妥当な結論を期待できるともいえます。そのため、控訴審においては、管理組合の占有者該当性を争わないという選択肢もあり得るでしょう。

 【※1】の事件の控訴審判決(東京高判令和5年6月28日・令和5年(ネ)第336号事件)は、管理組合の「占有者」該当性に関する原判決の判断を覆してはいませんが、これをもって、東京高裁が一般的に管理組合の「占有者」該当性を首肯しているとみてはいけません。

 次の例をみてみましょう。


■ 【※2】の判決について


 【※2】の判決は、結論の妥当性(①管理組合の占有者該当性を認めることによって、被害者から管理組合に対する損害賠償請求を可能としていること、②区分所有者全員(各自)が全額の損害義務を負うという結論を回避していること)をクリアーした見事な判決と評価することができます。

 しかしながら、同事件の控訴審判決(東京高判令和5年9月27日・令和5年(ネ)第786号事件)は上記①に関する第一審の判断を覆しています【※3】。

 もっとも、この控訴審判決に対しては、現在、上訴(上告受理申立て)がなされていますので、場合によっては、今後、最高裁により一定の判断(規範)が示される可能性はあります。


 【※3】東京高判令和5年9月27日の判断の要旨

 本件建物の共用部分の占有者は、管理組合である一審被告組合ではなく、本件建物の区分所有者全員である。
 一審被告組合が区分所有者全員との関係において共用部分を管理する責任を負うとしても、このことから直ちに民法717条1項本文の「占有者」として、これに基づく損害賠償責任を負うものと解することはできない。
 原判決が判示している管理規約の定めから当然に、管理組合において、区分所有者全員が負うべき民法717条1項に基づく損害賠償債務の履行をする権限を付与され、区分所有者全員との関係で同債務の履行を引き受ける義務を負うことになるものと認めることは困難である。
 特に、当該債務について、その負担の時期及び負担額が特定していない段階において、管理組合が、同規約に基づいて無条件に上記損害賠償債務について区分所有者全員との関係で債務の履行引受義務を負うものと解することは相当ではない。
 仮に、管理組合が、同規約に基づき、区分所有者全員との関係において、上記債務の履行を引き受ける義務を負うものであると解したとしても、このことから当然に、管理組合が、民法717条1項に基づく損害賠償請求権を有する「他人」に対して、直接に損害賠償支払義務を負い、同債務を履行すべき責任を負うものと解することはできない。
 一審原告は、一審被告組合に対し、民法717条1項に基づく損害賠償請求権を有するものとは解されない。

■ おわりに

 

 管理組合の占有者(民法717条1項本文)該当性に関する論点については、個人的には思うところがたくさんあるのですが、自分の立場(多くの事件で管理組合代理人として関わっていること)からすれば、私見を詳らかに公表することには躊躇を覚えます。

 とりあえず、管理組合の土地工作物責任(民法717条)が問題となっている場合には、直接、担当弁護士にご相談ください。




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