今回は、次のような質問をもとに、管理組合の目的(区分所有法3条)の範囲や規約共用部分(区分所有法4条)等について考えてみましょう。【※長文です】
(質問の背景)
私たちのマンション(一棟)の中に管理費等長期滞納者(区分所有者)が存在します。その滞納者所有の部屋について、管理組合は、区分所有法59条に基づき競売手続を進める予定です。ただし、滞納金額が非常に多額となっており、その滞納額は当該部屋の客観的価値を上回るような状況にあることから、区分所有法8条(特定承継人の責任)の適用を前提とする買受希望者は現れないと予想されます。
そこで、競売において、管理組合が当該部屋(専有部分)を買い受けて、それを第三者に譲渡して管理費等徴収の正常化を図りたいと考えています。場合によっては、当該部屋を管理組合の倉庫や集会室として利用することも考えています。
(質問)
1 管理組合が、マンションの一室(専有部分)を競売により買い受けて、それを第三者に譲渡することはできますか。その場合、管理組合を法人化とする必要はありますか。
2 管理組合が買い受けた部屋を倉庫等として利用していく場合はどうでしょうか。
はじめに(いずれにも共通する区分所有法3条との関係)
一般的に言われている「管理組合」には、法人格を有する「管理組合法人」と、法人格を有しない管理組合(以下「非法人管理組合」といいます。)があります。厳密にいえば、団地管理組合法人(区分所有法66条による47条の準用)や団地管理組合(区分所有法65条)もありますが、ここでは単棟型マンションを前提として述べます。
管理組合法人であっても、非法人管理組合であっても、区分所有法3条に基づき構成された団体であるため、その団体が行う行為については「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」という目的を遂行する上で直接又は間接に必要なものでなければなりません(新潟地裁長岡支部平成25年6月14日判決【注1】参照)。もちろん、区分所有法の適用範囲外のこととして、区分所有者全員の合意のもとになされる行為については別です。
ご質問のケースでも、管理組合が行おうとしている行為が区分所有法3条に規定する「目的」の範囲内といえるかどうかが問題となりますが、裁判例【注1】の基準に照らして考えると、結論としては同条に規定する目的の範囲内といえるでしょう。
なお、同条の「目的」の範囲は、管理組合法人である場合と非法人管理組合である場合とで違いは生じないと考えます。
1 管理組合が、マンションの一室(専有部分)を競売により買い受けて、それを第三者に譲渡する場合に、管理組合を法人化する必要はあるのか
(1)総論
管理組合が買い受ける専有部分の所有者を誰の名義にしたいのかということと関連します。
不動産登記法上、非法人管理組合の名義では登記できませんので、もし、団体名義で登記したいのであれば、法人化して「管理組合法人」にする必要があります。
他方、所有者名義を理事長等の「個人」(なお、ここでいう「個人」とは、区分所有法上の「管理者」をイメージしていますので、自然人だけでなく法人(株式会社等)を含んでいます。)の名義で構わないというのであれば、管理組合法人化する必要はありません。
ただし、「管理組合法人」名義で買い受ける方法と、理事長等の「個人」名義で買い受ける方法とでは様々な違いが生じてきます。
(2)「管理組合法人」として買い受ける方法
区分所有法47条に定めるように、区分所有法3条に規定する団体は、「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」を経て、法人登記をすることによって管理組合法人となることができます。
法人化することにより、管理組合法人名義で競売に参加して不動産を取得することが可能となり、管理組合法人として不動産を所有していることを公示(登記)することも可能となります。また、管理組合法人から第三者への所有権移転登記をすることも可能となります。
法人税等の問題や法人登記手続の問題(面倒)は生じますが、当該部屋(不動産)の取引主体や登記名義人を明確に「管理組合法人」とすることができます。
(3)理事長等の「個人」が買い受ける方法
非法人管理組合としては、当該部屋(専有部分)を団体(権利能力なき社団)として取得し売却する意図を有しているのでしょうが、不動産登記法上、当該部屋(専有部分)を団体(非法人管理組合)名義で登記することができません。そのため、理事長等の「個人」の名義で競売に参加して不動産を取得し、個人名義で登記することになってしまいます。
対外的には個人所有不動産として登記されることから、その個人から第三者に当該部屋(専有部分)が譲渡されたり、その個人に対する債権者から当該部屋(専有部分)が差し押えられたりするおそれ(リスク)はあります。
また、当該部屋(専有部分)に係る税金等の問題も生じます(一次的には個人が対応し、非法人管理組合との間で精算するという煩瑣が生じるでしょう)。さらにいえば、形式上は個人が当該部屋(専有部分)を取得することから、区分所有法8条に規定する「特定承継人の責任」の問題が生じないよう総会決議で明確にしておく必要もあります。
(4)結論(私見)
以上のような問題やリスク等を考慮すると、管理組合法人化したほうがよいと考えます。
2 管理組合が、マンションの一室(専有部分)を競売で買い受けて、これを倉庫等として利用していく場合はどうか
(1)総論
ア 「管理組合法人」名義で取得する場合
管理組合が倉庫等として利用する目的で、「管理組合法人」として取得し管理していくことは可能です。手続等については上記1(2)で述べたことが当てはまります。
イ 理事長等の「個人」名義で取得する場合
管理組合が倉庫等に利用する目的で、理事長等の「個人」名義で取得し管理していくことも可能であり、手続等については上記1(3)で述べたことが当てはまります。
ただし、理事長等の個人名義のままである場合、管理組合(団体)側のリスクが大きいため、規約によって共用部分(いわゆる規約共用部分)とすることも考えられます(区分所有法4条2項前段)。
以下、規約共用部分とすることについて検討してみましょう。
(ア)規約共用部分とするための手続
区分所有法4条2項前段【注2】が定めるとおり、専有部分となり得る建物の部分は規約により共用部分とすることができます。規約による必要がありますので、区分所有法31条1項の規定に基づき「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」が必要です。
ただし、区分所有法4条2項後段【注2】が定めるように、規約によって共用部分とされても、その旨の登記をしなければ、そのことを第三者(譲受人や差押債権者)に対抗することができません。そのため、共用部分である旨の登記を経る必要があります。
(イ)規約共用部分である旨の登記
① 申請者や申請書添付情報について
共用部分である旨の登記の申請については不動産登記法58条【注3】等に規定されています。
本件の場合、登記の申請人は、所有権の登記名義人たる理事長等の個人となります。
申請書の添付情報として、規約を設定したことを証する情報を提供する必要があります。 具体的には、規約の設定を決議した総会の議事録を提供することになり、議事録署名人の印鑑証明書の添付も必要があります。
② 所有権に関する登記の抹消
申請がなされると、登記官は、表題部所有者の登記または所有権その他の権利に関する登記を職権で抹消しなければなりません(不動産登記法58条4項)。
例えば、甲区欄に登記されている所有権の登記は抹消され、「不動産登記法第58条第4項の規定により抹消」と記載されます。
③ 規約共用部分である旨の登記
規約共用部分である旨の登記は、表題部(専有部分の建物の表示)の「登記原因およびその日付(登記の日付)」欄に記載されます。
例えば「令和〇年〇月〇日規約設定 共用部分」というように記載されます。
(2)結論(私見)
理事長等の個人名義のままにしておくことのリスクを回避するために規約共用部分とすることも考えられますが、その場合、当該部分の固定資産税等が(各区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合に基づき)各区分所有者の専有部分とあわせて課税されると思われます(つまり各区分所有者が納付すべき税額がアップする可能性があります)。
また、将来、何らかの事情により当該部分を第三者に売却しようとしたとき、下記(3)補足(問題点)で述べるような問題が生じます。
そこで、私見としては、とりあえず上記1の結論と同様に、管理組合法人として取得し管理していったほうがよいと考えます。
(3)補足(問題点)
規約共用部分も共用部分であるため、原則として区分所有者全員の共有に属することになります(区分所有法11条1項本文)。もし、そのような原則に従うと、規約共用部分を廃止したとき、当該部分(専有部分)は区分所有者全員の共有になるという理屈になってしまいます【注4】。そうなると、その後の当該部分(専有部分)の管理処分については民法の共有物の規定が適用され、当該建物(専有部分)の処分(売却)は全共有者の同意が必要であるという理屈になりそうです。
私見は上記のようには考えません【注5】が、無用の混乱(トラブル)を避けるために、とりあえず管理組合法人として所有していたほうがよいと思います。
【注1】新潟地裁長岡支部平成25年6月14日判決(出典:ウエストロー・ジャパン)
区分所有権の取得及び転売が管理組合法人の目的の範囲内の行為といえるかどうかの争点に対する当裁判所の判断より抜粋
(1) 区分所有法3条は,区分所有者が全員で「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体」を構成することができると規定する。被告は,区分所有法3条に規定する団体が,区分所有法47条1項の規定に基づき法人格を取得したものであるから,法人の目的は区分所有法3条に規定するものに限られ,規約でこれと異なる目的を定めることはできないと解される(区分所有法30条1項は,建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について,規約で定めることができる旨を規定するが,管理組合の目的について区分所有法3条の規定を離れて目的を設定することを認める趣旨ではないと解される。)。被告の法人登記でも,法人の目的については,本件マンションの建物並びにその敷地及び附属施設の管理と登記されている点も踏まえると,被告の目的は,「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」に限られ,したがって,被告は,この目的の範囲内で権利を有し,義務を負うことになる(民法34条)。
もっとも,被告の目的の範囲内の行為とは,明示された上記目的自体に限局されるものではなく,その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為も包含されると解するのが相当である(最高裁昭和24年(オ)第64号同27年2月15日第二小法廷判決・民集6巻2号77頁,同27年(オ)第1075号同30年11月29日第三小法廷判決・民集9巻12号1886頁,同平成11年(受)第743号同14年4月25日第一小法廷判決・判例タイムズ1091号215号参照)。
(2) 原告は,被告の目的の範囲内の行為とは,建物または敷地若しくは附属施設の管理や使用に関することと,これに関する区分所有者相互間の調整に関することに限定されると主張する。たしかに,管理組合法人は,区分所有法によって設立が認められた法人であり,営利法人ではなく,区分所有法3条によって団体の目的が法定され,区分所有者の加入が強制される団体であるから,目的の範囲が営利目的の会社と同等に広範に及ぶものと解するのは相当でない面もある。しかしながら,他方,管理組合法人は公益法人その他の非営利法人でもなく,講学上の中間法人とされ,税法上も,法人税法2条6号に規定する公益法人等とみなされながら,収益事業所得については普通法人並みの課税税率で課税され(区分所有法47条13項,法人税法66条参照),また,行政庁の監督等も行われていないなど,公的性格や公益的性格を有する団体でないこともまた明らかであり,法人の法的性格から目的の範囲を限定して解すべき要請が特に高いとはいえない。また,昨今のマンション管理業務の多様化や複雑化にともない,管理組合法人が行うべき社会経済活動が拡大している状況下で,管理組合法人の目的の範囲を過度に限定的に解釈することは,取引の安全を損なう結果となるおそれもある。
これらの点を踏まえると,被告の目的の範囲内の行為を原告の主張するように限定的に解することは相当でなく,前記のとおり,「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」という目的を遂行する上で直接又は間接に必要な行為を行うことについては,被告の活動範囲に含まれると解すべきである。
(3) なお,原告は,たとえば,敷地の全部又は一部を売却することは,区分所有権との分離処分が認められる場合でも,団体の管理としてなし得るのではなく,敷地の所有者または持分権者の個別の行為としてなし得るだけである(甲5)から,専有部分の区分所有権の取得や転売は「管理」外の行為であり,被告の目的の範囲外であるとも主張する。しかし,原告が援用する甲第5号証の当該記載部分は,敷地の権利帰属主体ではない管理組合が,団体の「管理」として敷地の全部又は一部を売却することができない旨を明らかにしたものにすぎず,法人格を有し,組合員とは別に権利の帰属主体となり得る被告が,専有部分の区分所有権を取得した上で,所有者としてこれを処分することを一概に否定する趣旨とは解されない。原告は,また,管理組合法人は対外的な活動は想定されておらず,内向きな団体であり,たとえば,管理組合が居室を取得し,それを賃貸して収益を上げることも許されないと主張するが,たとえば,法人格を有する管理組合が敷地の一部の所有権を取得し,これを駐車場として第三者に賃貸することはあり得るところであり,管理組合法人の法的性格について,対外的な活動を全く予定しない団体であると断定するのは相当でない。前記のとおり,専有部分の区分所有権の取得及び転売という行為について,被告の目的を遂行する上で直接又は間接に必要な行為といえる場合には,被告の目的の範囲内の行為として許されるというべきである。
(4) 以上を前提として,本件各決議で決議された行為(専有部分の区分所有権の取得及び転売行為)が,被告の目的の範囲内の行為といえるかについて検討する。
ア 管理組合法人は,区分所有者に対して管理費等の支払請求権を有し,管理費等の徴収を行う。管理費等の適正な徴収は,建物の管理保守や維持のための財政的基盤を維持する上で必要不可欠であり,被告の目的を実現するために必要な行為として,被告の目的の範囲内の行為である。
管理組合法人は,また,区分所有者の共同の利益に反する行為を行う者(以下「共同利益背反行為者」という。)に対して,その区分所有権及び敷地利用権につき競売を請求する権限を有する(区分所有法59条1項)。同項の趣旨は,競売によって共同利益背反行為者の区分所有権をはく奪し,区分所有関係から排除する点にあるが,長期にわたり多額の管理費を滞納する行為は,その態様によっては共同利益背反行為に当たると解されており,管理組合法人は,同項の競売請求によって,将来にわたる管理費等の滞納継続を防止し,管理費等の適正な徴収を実現することができる。同項の競売請求権の行使は,区分所有法によって管理組合法人に認められた権限であるとともに,管理費等の適正な徴収のために必要な行為でもあるから,やはり被告の目的の範囲内の行為である。
イ ところで,管理費等の債権については特定承継人に対しても行使される(区分所有法8条)ため,滞納管理費等が多額に上る区分所有権については,区分所有法59条1項の規定に基づく競売の申立てをしても,区分所有権の客観的価値が滞納管理費等の額を下回るために,買受希望者が現れない事態が生じ得る。前記第2の2(7)のとおり,被告が過去に行った区分所有法59条1項に基づく競売申立てでも,売却基準価額がわずか1万円(買受可能価額8000円)であったにもかかわらず,被告以外に買受希望者が現れなかったというから,本件マンションについて,上記の事態が現に生じていたことが認められる。この場合,管理組合法人である被告は,共同利益背反行為者を区分所有関係から排除するという目的を実質的に達成することができず,管理費等の適正な徴収を実現することも事実上不可能となり,被告の目的の範囲内の行為を実現することができない事態に直面することになる。
ウ 本件各決議では,管理費等を滞納する共同利益背反行為者の区分所有権につき,区分所有法59条1項の競売請求を行うことを決議するに際し,当該競売手続で買受希望者が現れない場合の次善の策として,被告が,第三者への転売を前提として自ら競落することを決議したものである。前記イでみた事情を踏まえると,買受希望者が現れない場合に限り,管理組合法人で自己競落するという措置は,区分所有法59条1項規定の競売の目的を実質的に達成し,管理費の適正な徴収を可能にするために必要かつやむを得ないものと認められる。また,被告が競落するのは,前記イでみた事情により買受希望者が現れない場合に限られるため,区分所有権取得のための代金額は自ずと低額なものとなり,投機的な要素もない。これらの点を踏まえると,買受希望者が現れない場合に限り,被告が専有部分の区分所有権を競売により取得し,これを第三者に転売するという行為は,被告の目的を遂行する上で直接又は間接に必要な行為であると認めるのが相当である。
【注2】区分所有法4条
(共用部分)
第四条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2 第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
【注3】不動産登記法58条
(共用部分である旨の登記等)
第五十八条 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記に係る建物の表示に関する登記の登記事項は、第二十七条各号(第三号を除く。)及び第四十四条第一項各号(第六号を除く。)に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 共用部分である旨の登記にあっては、当該共用部分である建物が当該建物の属する一棟の建物以外の一棟の建物に属する建物の区分所有者の共用に供されるものであるときは、その旨
二 団地共用部分である旨の登記にあっては、当該団地共用部分を共用すべき者の所有する建物(当該建物が区分建物であるときは、当該建物が属する一棟の建物)
2 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をする建物の表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。
3 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分又は団地共用部分である建物に所有権等の登記以外の権利に関する登記があるときは、当該権利に関する登記に係る権利の登記名義人(当該権利に関する登記が抵当権の登記である場合において、抵当証券が発行されているときは、当該抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)の承諾があるとき(当該権利を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合にあっては、当該第三者の承諾を得たときに限る。)でなければ、申請することができない。
4 登記官は、共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をするときは、職権で、当該建物について表題部所有者の登記又は権利に関する登記を抹消しなければならない。
5 第一項各号に掲げる登記事項についての変更の登記又は更正の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の所有者以外の者は、申請することができない。
6 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物について共用部分である旨又は団地共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合には、当該建物の所有者は、当該規約の廃止の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。
7 前項の規約を廃止した後に当該建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。
【注4】規約共用部分の廃止について
規約共用部分について廃止することもできます。当該部分を共用部分と定めている規約の規定を廃止する旨の決議(区分所有法31条)によって行います。
不動産登記法58条6項は以下のように定めています。
共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物について共用部分である旨又は団地共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合には、当該建物の所有者は、当該規約の廃止の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。
共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合の登記申請人は、その時点における当該建物の実体上の所有者となります。その時点における当該建物の実体上の所有者が誰であるのかが問題となり、考え方によっては、当該建物の所有者は全区分所有者(共有の状態)であるという理屈も成り立ちます。
仮に全区分所有者の共有であると考えると、原則として全区分所有者による申請となります。その共有者のうちの一人が保存行為(民法252条ただし書)として申請することも可能ですが、その場合も、申請人欄には他の共有者を表示し、共有者全員の持分を記載する必要があります(香川保一編著「新不動産登記書式解説(一)」(テイハン、平成18年)234頁参照)。
【注5】私見
当該建物(専有部分)を全区分所有者の共有物にすることは、団体(管理組合)の意思やその構成員(組合員)の意思に合致しておりません。
もともと、団体(管理組合)ないし構成員(組合員)は、当該建物(専有部分)を非法人管理組合の財産として取得する意思を有していたはずであり、ただ非法人管理組合名義で登記することができないため個人名義にしていたはずです(総会議事録の記載の仕方には注意や工夫が必要です)。
当該建物(専有部分)の実質的な所有者は管理組合であり、それを規約共用部分にしたとしても同部分の所有権(共有持分)を全区分所有者に移転させるつもりはなかったはずです。規約の廃止によって共用部分が廃止されたときの実質的な所有者も管理組合のままであるといえるでしょう。したがって、登記上の所有名義人は、当該管理組合から委任を受けた理事長等の個人ということで、当該個人が登記申請人になることも可能であると考えます(ただし、総会議事録の記載の仕方には注意や工夫が必要です)。
ちなみに、共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合においても、登記申請書の添付情報として、規約を廃止したことを証する情報(総会議事録)を提供する必要があり、議事録署名人の印鑑証明書の添付が必要となります。
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