2021年民法(物権法)改正(2023年4月1日施行)後の隣地使用権(民法209条)について
- @lawyer.hiramatsu
- 3月29日
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今回は以下のような質問について検討します。
私(X)が所有する土地の境界付近に私所有の塀が建っていますが、その塀が老朽化しているため改修工事を実施する必要があります。ただし、その改修工事のためには隣地に立ち入らざるを得ません。
私は、隣地所有者兼隣地使用者(Y)に事情を説明し、立ち入らせてほしいと申し入れましたが、Yからは拒絶されました。もともと隣人(Y)と私(X)が不仲であったことが理由だと思います。
私は、隣人(Y)の承諾がなくとも、隣地を使用することができますか。
■ はじめに
ご質問の事案(「本件」といいます。)において、XさんがYさん所有の土地を使用できる実体法上の根拠は民法209条【※】ということになります。
現在の民法209条【※】は2023年4月1日から施行されていますので、ここでは現行民法209条【※】を前提に検討していきます。
【※】民法209条
(隣地の使用)
第209条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第3項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
■ 検討
1 民法209条1項~3項
まず、本件の塀の改修工事が、民法209条が定める隣地使用権の要件を充たすかどうかを検討する必要があります。
具体的には以下の3つの要件について検討する必要があります。
(1)民法209条1項(隣地使用目的)との関係
本件の塀の改修工事は、民法209条1項1号の「境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕」に該当するといえます。
そのため、Xさんは、その工事の目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる(民法209条1項柱書本文)ことになります。
(2)民法209条2項(隣地使用方法選択)との関係
民法209条1項の要件をクリアーするとしても、その使用の日時、場所及び方法は、隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。Xさんは不必要に隣地(Yさんの土地)を使用することはできません。
この要件については、本件の工事との関係で具体的に(ケースバイケースで)検討する必要があります。
(3)民法209条3項(事前通知義務)との関係
民法209条1項の規定により隣地を使用する者は、原則として、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければなりません(民法209条3項本文)。
この通知が、隣地使用権発生のための成立要件なのか、それとも隣地使用を適法に行使するための行使要件なのかという解釈論はさておき、「あらかじめ通知することが困難なとき」(民法209条3項ただし書)を除き、あらかじめ通知しておく必要があります。
一般的に、通知を受けた人(被通知者)は、土地を使用されることについての準備をすることもあるでしょうし、または、通知者に対し、使用の日時、場所又は方法の変更等を求めることもあるでしょうから、被通知者にあらかじめそのような機会を与えることが必要です。なお、通知内容の「方法」については、被通知者にとって、それ(方法)が民法209条2項の要件を充足するかの判断を可能とする程度の具体性が必要です。
本件のYさんも、使用の日時、場所、方法如何によっては隣地使用を受け入れる可能性があるでしょうから、この通知には重要な意義があります。
2 民法209条4項(隣地所有者等の償金請求権)
民法209条4項は、「第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。」と規定しています。
つまり、Xさんによる隣地の使用が適法な隣地使用権の行使であったとしても、それによりYさんに損害が発生した場合には、YさんはXさんに対しその償金を請求することができることになります。
■ おわりに
民法209条(実体法)の解釈適用により、Yさんの承諾がなくともXさんには隣地使用権が認められることはあります。
しかし、実体法上Xさんに隣地使用権が認められるとしても、当然にXさんによる自力救済が許容されるわけではありませんので注意が必要です。
本件において、Yさんが一貫してXさんの権利行使を拒絶する場合(交渉による解決も不可能な場合)には、Xさんとしては民事訴訟を提起せざるを得ないでしょう。
具体的には、Yさんを被告として、隣地使用権の確認や隣地使用の妨害行為差止め等を求めて提訴する必要があるといえます。
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