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@lawyer.hiramatsu

民事執行:債権差押命令と債権譲渡通知が届いた場合の第三債務者の対応について

 今回は、以下のようなご質問について検討します。

 当社はAと取引関係にありますが、Aの債権者Xの申立てにより、裁判所から、Aが当社に有する債権についての差押命令が届きました。また、Aは、同じ債権をYに譲渡したとして、当社に対し確定日付のある内容証明郵便にて通知(債権譲渡通知)をしてきました。前者の差押命令の送達日と後者の債権譲渡通知の到達日は同じ日ですが、どちらが先に届いたかは不明です。
 当社としてはどうすればよいでしょうか。

 以下の説明においては、ご質問のXを「差押債権者」、Yを「債権譲受人」、Aを「債務者」、当社を「第三債務者」ということにします。


■ 回答:到達の先後関係が不明な場合


 本件のように債権差押命令の到達日時と確定日付のある債権譲渡通知の到達日時の先後関係が不明である場合、債権者相互間の優劣関係としては、差押債権者も債権譲受人もお互いに自己が優先的地位にあることを主張できません。

 そのため、第三債務者としては、債権者不確知を原因とする供託(民法494条2項)【※1】をすることができるでしょうから(最高裁平成5年3月30日判決参照)、この供託をしたほうがよいです。


 【※1】民法494条

(供託)
第494条 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
 一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
 二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。

■ 補足1:到達の先後関係が明確な場合

 

 差押債権者と債権譲受人との間の優劣は、債権差押命令が第三債務者に到達した日時と確定日付のある債権譲渡通知が第三債務者に到達した日時の先後によります(最高裁昭和58年10月4日判決【※2】等)。

 到達の先後関係が明確な場合には、債権者相互間の優劣関係としては、先に到達した方の債権者が優先的地位にあることを主張できます。そのため、第三債務者としては、そちらを債権者として扱うことになります。

 ただし、現実問題として、第三債務者の立場で、到達日が同一であるのに、その先後関係が明確であるとして対応することにはリスクを伴いますので、もしこのような事態が生じている場合には弁護士等に相談して慎重に対応すべきでしょう。


 【※2】最高裁昭和58年10月4日判決

 債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣は、確定日付のある譲渡通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時と仮差押命令が第三債務者に送達された日時の先後によって決すべきものであることは当裁判所の判例とするところ(最高裁昭和47年(オ)第596号同49年3月7日第一小法廷判決・民集28巻2号174頁)、この理は、本件におけるように債権の譲受人と同一債権に対し債権差押・転付命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても、なんら異なるものではないと解するのが相当である。

■ 補足2:到達が同時である場合


 債権差押命令と確定日付のある債権譲渡通知が同時に第三債務者に到達した場合には、差押債権者も債権譲受人もいずれも有効に差押債権者たる地位及び譲受債権者たる地位を取得すると解されています。そのため、第三債務者としては債権差押えの効力が及んでいる一方で、譲受債権者からの請求も受けることになりそうです(最高裁昭和55年1月11日判決【※3】参照)。

 このような場合、第三債務者としては権利供託(民事執行法156条1項)【※4】をしたほうがよいでしょう。ちなみに、債権者不確知を原因とする供託(民法494条2項)【※1】はできないと解されています。

ただし、権利供託をするとしても、譲受債権者との関係ではリスクを伴いますので、もしこのような事態が生じている場合には弁護士等に相談したほうがよいでしょう。


 【※3】最高裁昭和55年1月11日判決

 思うに、指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達したときは、各譲受人は、第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた第三債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできないもの、と解するのが相当である。また、指名債権の譲渡にかかる確定日付のある譲渡通知と右債権に対する債権差押通知とが同時に第三債務者に到達した場合であっても、右債権の譲受人は第三債務者に対してその給付を求める訴を提起・追行し無条件の勝訴判決を得ることができるのであり、ただ、右判決に基づいて強制執行がされた場合に、第三債務者は、二重払の負担を免れるため、当該債権に差押がされていることを執行上の障害として執行機関に呈示することにより、執行手続が満足的段階に進むことを阻止しうる・・・にすぎないのである(最高裁昭和45年(オ)第280号同48年3月13日第三小法廷判決・民集27巻2号344頁参照)。

 【※4】民事執行法156条

(第三債務者の供託)
第156条 第三債務者は、差押えに係る金銭債権(差押命令により差し押さえられた金銭債権に限る。以下この条及び第161条の2において同じ。)の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。
2 第三債務者は、次条第1項に規定する訴えの訴状の送達を受ける時までに、差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令、差押処分又は仮差押命令の送達を受けたときはその債権の全額に相当する金銭を、配当要求があつた旨を記載した文書の送達を受けたときは差し押さえられた部分に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
3 第三債務者は、第161条の2第1項に規定する供託命令の送達を受けたときは、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
4 第三債務者は、前3項の規定による供託をしたときは、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。

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