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@lawyer.hiramatsu

民事執行:不動産競売手続における無剰余取消し回避の方法(マンション管理組合の場合)

 今回は、以下のようなご質問について検討します。

 マンション管理組合Xは、組合員Yに対する管理費等請求事件の判決(債務名義)に基づいて、Yが所有する当該マンションの部屋(不動産)の強制競売を申し立てました。なお、当該不動産には抵当権は設定されていませんでした。
 この度、裁判所からXに対し、当該不動産の買受可能価額が手続費用額(見込額)を超えない旨の通知(いわゆる無剰余通知)が届きました。同通知書には下記の説明も記載されていました。管理組合Xとしてはどうすればよいですか。
                   記
 差押債権者が、この通知を受けた日から1週間以内に、手続費用の見込額を超える額を定めて、民事執行法63条2項各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消すことになります。ただし、差押債権者が上記の期間内に不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えることを証明したときは、この限りではありません。

■ はじめに


 はじめに、民事執行法63条2項各号を確認する必要があります。民事執行法63条2項【※1】については次のとおりです。


 【※1】民事執行法63条2項

 差押債権者が、前項(注:63条1項【※2】)の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあっては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあっては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であって不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
 一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合 申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
 二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合 買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供

 【※2】民事執行法63条1項

 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第47条第6項の規定により手続を続行する旨の裁判があったときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
 一 差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
 二 優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。

 上記のとおり、民事執行法63条2項【※1】は、「差押債権者が不動産の買受人になることができる場合」(一号)と「差押債権者が不動産の買受人になることができない場合」(二号)を区別しています。

 そこで、まず、本件の管理組合Xが不動産の買受人になることが「できる」のか「できない」のかを確認する必要があります。

Xが管理組合法人である場合は買受人になることが「できる」と考えて対応を検討することになります。

 Xが法人格を有していない団体(権利能力なき社団)である場合は買受人になることが「できない」と考えて対応を検討することになります。

 いずれにしても、通知を受けてから1週間以内に無剰余取消し回避の措置をとるのは難しいと思われますので、Xとしては、一定の期間の猶予を求める上申を裁判所にしておくべきです。


■ Xの対応について


 本件は優先債権がない場合ですから、無剰余取消し回避の措置として、基本的には次の方法が考えられます。


1 Xが管理組合法人の場合


(1)手続費用の見込額を超える額(申出額)を定めて、申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供をする方法

(2)通知された無剰余の場合(本件では、買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき)に該当しないことを証明する方法


2 Xが法人格を有しない場合


(1)手続費用の見込額を超える額(申出額)を定めて、買受申出の額が申出額に達しないときは申出額と買受申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供をする方法

(2)通知された無剰余の場合(本件では、買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき)に該当しないことを証明する方法


3 補足説明:上記1(1)と上記2(1)について


(1)上記1(1)の場合

 ア 管理組合法人Xの申出額に達する買受申出がない場合はXが最高価買受申出人となります。Xについての売却許可決定が確定すると、Xが提供した保証は売却代金に充てられます。

 イ 管理組合法人Xの申出額以上の買受申出があった場合は、その最高価買受申出人について売却許可がなされ、その売却許可決定が確定して代金が納付されると、Xが提供した保証は返還されます。

 その最高価買受申出人から代金が納付されない場合、その申出人の保証額を勘案(民事執行法86条1項三号【※3】)して見直し後もなお剰余を生じる見込みがない場合には、原則として差押債権者の当初の申出の効力を維持して再度売却実施処分に付されます。その申出人の保証額を加算することで剰余を生じることになれば、通常の売却実施処分に付されることになり、Xが提供した保証は返還されます。


 【※3】民事執行法86条1項

(売却代金)
第86条 売却代金は、次に掲げるものとする。
 一 不動産の代金
 二 第63条第2項第二号の規定により提供した保証のうち申出額から代金の額を控除した残額に相当するもの
 三 第80条第1項後段【※4】の規定により買受人が返還を請求することができない保証
2~3項 省略 

 【※4】民事執行法80条1項

(代金不納付の効果)
第80条 買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は、その効力を失う。この場合においては、買受人は、第66条【※5】の規定により提供した保証の返還を請求することができない。
2項 省略

 【※5】民事執行法66条

(買受けの申出の保証)
第66条 不動産の買受けの申出をしようとする者は、最高裁判所規則で定めるところにより、執行裁判所が定める額及び方法による保証を提供しなければならない。

 【参考】民事執行規則39条

(期日入札における買受けの申出の保証の額)
第39条 期日入札における買受けの申出の保証の額は、売却基準価額の十分の二とする。
2 執行裁判所は、相当と認めるときは、前項の額を超える保証の額を定めることができる。

(2)上記2(1)の場合

 ア 買受可能価額以上の買受申出がなかった場合は、競売手続が取り消されます(民事執行法63条3項【※6】)。


 【※6】民事執行法63条3項

3 前項(注:63条2項)第二号【※1】の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。

 イ 買受可能価額以上の買受申出があり、その最高価買受申出人の申出額がXの申出額に達しない場合は、当該最高価買受申出人に売却許可がなされ、それが確定して代金が納付されると、最高価買受申出人の申出額とXの申出額の差額分(Xが提供した保証の一部ないし全部)も売却代金に充てられます(民事執行法86条1項二号【※3】)。

 その最高価買受申出人から代金が納付されない場合、その買受申出人の保証額を勘案(民事執行法86条1項三号【※3】)して見直し後もなお剰余を生じる見込みがない場合には、原則として差押債権者の当初の申出の効力を維持して再度売却実施処分に付されます。その買受申出人の保証額を加算することで剰余を生じることになれば、通常の売却実施処分に付されることになり、Xが提供した保証は返還されます。


4 補足説明:上記1(2)と上記2(2)について


 上記1(2)と上記2(2)の要件は共通しています。

ここでいう「通知された無剰余の場合(本件では、買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき)に該当しないこと」の証明については、例えば、Xが手続費用を放棄することで、「不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えないことに該当しないこと」の証明とする方法が考えられます(高松高裁平成28年9月21日決定【※7】)。

 実際、手続費用放棄による方法は実務上多用されています。


 【※7】高松高裁平成28年9月21日決定の要旨

【民事執行法63条の規定の趣旨について】
 民事執行法63条の規定は、差押債権者に配当されるべき余剰がなく、差押債権者が競売によって配当を受けることができないにもかかわらず、無益な競売がされることを避け(無益執行の禁止)、また、優先債権の債権者がその意に反した時期にその投資の不十分な回収を強要されるという不当な結果を避けて(換価時期選択の利益の保護)、ひいては執行裁判所をして無意味な競売手続から開放させる必要があり、そのような場合に競売手続を取り消すことを原則としつつ、売却前の段階において無剰余になるか否かは確定できず未だその見込みがあるに止まることや、不動産が換価価値の高いものである上、執行裁判所にとっては当該不動産に設定された担保権等の優先債権の内容が必ずしも明らかではないことなどから、差押債権者に無剰余となる見込みであることを通知して、執行裁判所の見込みに誤りがないか否かを確認させ、又は優先債権の債権者に競売手続の続行に異議がない旨の同意を取り付けさせ、若しくは買受け又は差額負担の申出等の措置をさせることによって、差押債権者が競売手続の続行を求めることを可能にする趣旨のものであると解される。

【差押債権者が手続費用を放棄することにより、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えないことに該当しないことの証明とすることについて】
 本件のように優先債権がない場合には、法63条に基づき無剰余取消決定をすべきか否かは、専ら無益執行禁止の趣旨に反するかどうかの観点から検討することとなる。差押債権者が手続費用を放棄すれば、これにより買受価額が手続費用の額を超えなくても、差押債権者への配当が見込まれることとなるのであるから、当該執行手続が無益なものというわけではない。債務者にとっても、配当手続が行われれば債務額が減少することになる。もっとも、債務者にとっては、低額での売却によって当該不動産を失う結果となるおそれがあるものの、無剰余取消決定によって不動産の売却が回避される結果は、制度の反射的利益であって法的保護に値するものとは考え難い。また、文理上も、手続費用を放棄することが、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えないときに該当しないことを証明したとき(法63条1項1号、同条2項ただし書)との法の定める場合に該当すると解することに特段の支障はないものと考えられる。以上によれば、差押債権者が手続費用を放棄することにより、不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超えないことに該当しないことの証明(法63条2項ただし書、同条1項1号)とすることも許容できると認めるのが相当である。

【執行裁判所の負担等との関係について】
 手続費用の放棄による無剰余取消回避を認めた場合、執行裁判所としては、当該不動産について売却等の執行手続を続行せざるを得なくなるが、売却の見込みがない場合に法68条の3【※8】に従って当該不動産についての執行手続を取り消すなどの手続もあることを考慮すると、執行裁判所に無意味、過大な負担を強いる結果となるともいい難い。

 【※8】民事執行法68条の3

(売却の見込みのない場合の措置)
第68条の3 執行裁判所は、裁判所書記官が入札又は競り売りの方法による売却を三回実施させても買受けの申出がなかつた場合において、不動産の形状、用途、法令による利用の規制その他の事情を考慮して、更に売却を実施させても売却の見込みがないと認めるときは、強制競売の手続を停止することができる。この場合においては、差押債権者に対し、その旨を通知しなければならない。
2 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から三月以内に、執行裁判所に対し、買受けの申出をしようとする者があることを理由として、売却を実施させるべき旨を申し出たときは、裁判所書記官は、第64条の定めるところにより売却を実施させなければならない。
3 差押債権者が前項の期間内に同項の規定による売却実施の申出をしないときは、執行裁判所は、強制競売の手続を取り消すことができる。同項の規定により裁判所書記官が売却を実施させた場合において買受けの申出がなかつたときも、同様とする。

■ さいごに


 ご質問の管理組合Xの対応についてですが、①仮にXが管理組合法人である場合には、Xとして当該部屋を買い受ける考えがあるのかどうか等を考慮して検討することになり、②仮にXが非法人の管理組合である場合には、(ⅰ)近いうちに法人化して当該部屋を買い受ける考えがあるのかどうか、(ⅱ)当該部屋について買受可能価額以上の買受申出があることが確実であるのかどうか等を考慮して検討することになります。


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