共用部分の設置又は保存の瑕疵に起因して損害を受けた被害者は、民法717条1項の規定に基づいて、まずは共用部分の「占有者」に対して損害賠償請求することが考えられます。
民法717条の条文を確認しておきましょう。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
民法717条に関する論点はいくつもありますが、ここでは「共用部分の占有者は誰か」という問題について考えます。
まず、共用部分の占有者に関しては、東京高裁平成29年3月15日判決が次のように判示しています。
そこで検討するに、第1審原告が本件建物の共用部分を占有していることを認めるに足りる証拠はない。本件建物の共用部分の占有者は、管理組合たる第1審原告ではなく、本件建物の区分所有者の全員である。第1審原告は、区分所有法3条の団体(管理組合)であり、本件建物の共用部分を管理しているが、管理責任があるところに占有があるとはいえないのであり、管理組合が共用部分の占有者(民法717条1項の第一次的責任主体)であるとみるには無理がある。したがって、第1審原告が民法717条1項の占有者であることを前提とする第1審被告の工作物責任の主張は、理由がないことに帰する。
上記東京高裁判決後においても、「管理組合が共用部分の占有者である」とみる見解はあります。
たしかに、そのような見解を取ったほうが、被害者側にとっても、管理組合構成員(区分所有者全員)側にとっても便宜のように思われます。
しかし、ここ数年の実際の裁判の結果(判決)を踏まえると、「管理組合が共用部分の占有者である」とみるのは難しそうです。
私がそのように考えるに至った判決(抜粋)を紹介しておきます。裁判所による判断の傾向が分かります。
■ 東京地裁令和2年9月25日判決(抜粋)
原告は、本件事故当時、本件配管の設置又は保存に関する瑕疵があったとところ(原文ママ)、被告管理組合は、本件配管を管理していた以上、これを占有していたといえるとし、被告管理会社も、被告管理組合から本件配管を含む共用部分の維持管理の委託を受け、本件配管を管理していたから、これを占有していたといえると主張する。
しかし、被告管理組合は、区分所有法3条の管理組合として、本件マンションの共用部分を管理しているものの、上記共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、本件マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、被告管理組合が上記共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。
同様に、被告管理会社は、被告管理組合から本件マンションの共用部分の管理を委託されているものの、被告管理組合が上記共有部分を占有しているといえない以上、被告管理会社もこれを占有しているということはできない。
したがって、本件配管の設置又は保存に瑕疵があり、これにより本件事故が生じたとしても、被告管理組合や被告管理会社がこれを占有していたということはできない。
■ 宇都宮地裁栃木支部令和3年5月31日判決(抜粋)
次に、原告らの被告管理組合に対する区分所有法9条及び民法717条に基づく損害賠償請求の成否について検討するに、原告らは、本件居室の居間の天井から生じた雨漏りの原因が本件マンションの共用部分に存在することを前提に、被告管理組合が本件マンションの共用部分を占有しているものとして、区分所有法9条及び民法717条に基づく上記賠償責任を負うと主張する。しかしながら、証拠(甲9)によれば、被告管理組合は、区分所有法3条の団体(管理組合)として、本件マンションの共用部分を管理していることは認められるものの、本件マンションの共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、本件マンションの区分所有者全員がこれを占有しているものというべきであり、被告管理組合が同共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。したがって、その余の点(上記雨漏りの原因が生じた部分等)につき判断するまでもなく、被告管理組合が、上記雨漏りに関して原告らに生じた損害につき区分所有法9条及び民法717条に基づく損害賠償義務を負うものではない。
■ 静岡地裁沼津支部令和3年12月3日判決(抜粋)
原告は、管理に当たる責任者が誰もいないことはあり得ず、本件マンションにおける自動ドアの占有者は、管理組合法人である被告であると主張する。
しかし、本件ドアを含む本件マンションの共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべきものであるから、本件ドアの占有者は、本件マンションの区分所有者全員であるというべきである。
他方、被告は、管理組合法人として、本件マンションの共用部分を管理しているものの、被告が自己のために本件ドアを利用しているのではないから、被告が本件マンションの共用部分を管理していることをもって、本件ドアを事実上支配しているとは評価できない。
したがって、被告が本件ドアを占有しているとは認められないから、争点2(主位的請求について、本件ドアの瑕疵)及び争点4(原告の損害の発生及び損害額)について検討するまでもなく、原告の主位的請求には、理由がない。
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