今回は、以下のようなご質問をもとに、団地における区分所有法57条から60条までの規定に基づく措置について検討します。
なお、団地管理組合と区分所有法59条との関係については、こちらもご参照ください。
〈前提〉
当マンションは「団地」であり、当マンションの管理規約は、国土交通省が公表しているマンション標準管理規約(団地型)(以下「標準管理規約(団地型)」といいます。)と同内容です。
当団地において、ある棟の区分所有者に対し、区分所有法57条に基づく差止請求(訴訟)を予定しています。区分所有法57条の規定については理解しています。
〈質問〉
① この訴訟に係る費用(弁護士費用を含む)について、全体の管理費から支出することはできますか。
② 差止請求の相手方に対し、「違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用」を請求することはできますか。
■ ご質問①の背景
ご質問①の背景について整理すると以下のとおりです。
(1)標準管理規約(団地型)においては、「管理費」、「団地修繕積立金」、「各棟修繕積立金」について定められているが、棟ごとに区分経理されているのは「各棟修繕積立金」だけである(標準管理規約(団地型)第30条)【※1】。
(2)区分所有法57条に基づく「訴えの提起」及び「訴えを提起すべき者の選任」については「棟総会の決議を経なければならない」(標準管理規約(団地型)第72条第二号)【※2】とされている。
(3)そうすると、その訴えに係る費用の支出についても、その棟で支出しなければならないのか。全体の「管理費」から支出することはできないのか。
■ ①についての回答(私見)
(1)結論
標準管理規約(団地型)第50条【※3】が規定する団地総会の決議を経ることで、管理費から支出することは可能です。なお、後記発展の部分もご参照ください。
(2)解説
標準管理規約(団地型)第27条【※4】は「管理費」について定めています。
そして、標準管理規約(団地型)第34条【※5】は管理組合の業務について定めています。
その上で、標準管理規約(団地型)第77条【※6】では、共同生活の秩序を乱す行為を行った者に対する措置について定めています。
つまり、標準管理規約(団地型)は、団地管理組合が共同の利益に反する行為の停止等の措置のための費用支出を否定する趣旨ではないといえます。
ただし、費用支出については管理規約に定める手続きが必要です。具体的には、標準管理規約(団地型)第50条第三号ないし第四号、第十七号【※3】としての団地総会の決議が必要と考えます。
■ ご質問②の背景
ご質問②の背景について整理すると以下のとおりです。
(1)標準管理規約(団地型)第77条第4項【※6】が定める「違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用」の請求の主体は「理事長」すなわち団地管理組合の代表者となっている。
(2)区分所有法57条に基づく請求の主体は、団地管理組合の代表者ではない。
(3)そうすると、区分所有法57条に基づく請求の場合には、標準管理規約(団地型)第77条第4項の規定を根拠にするのは難しいのではないか。
■ ②についての回答(私見)
(1)結論
たしかに、ご質問②の背景(3)のように思われます。
標準管理規約(団地型)第76条【※7】と第72条【※2】を関連させて、例えば第76条第2項として次のような条項を定めておいてはいかがでしょうか。
(2)改正規約案(第76条第2項案として)
2 第72条第二号に基づき訴えを提起する場合、訴えを提起すべき者は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
■ 発展
管理費からの支出のみならず、団地修繕積立金の取り崩しや各棟修繕積立金の取り崩しも想定した更なる改正規約案を示しておきます。
(1)改正規約案(第50条【※3】に追加する第●号案として)
● 第76条第1項に定める措置に係る費用に充てるための管理費からの支出又は団地修繕積立金の取り崩し
(2)改正規約案(第72条【※2】に追加する第●号案として)
● 第76条第1項に定める措置に係る費用に充てるための各棟修繕積積立金の取り崩し
(3)改正規約案(前記第76条第2項案に続く第3項案として)
3 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、その費用に充てるために支出した管理費又は取り崩した団地修繕積立金若しくは各棟修繕積立金に充当する。
【※1】標準管理規約(団地型)第30条
(区分経理)
第30条 管理組合は、次の各号に掲げる費用ごとにそれぞれ区分して経理しなければならない。
一 管理費
二 団地修繕積立金
三 各棟修繕積立金
2 各棟修繕積立金は、棟ごとにそれぞれ区分して経理しなければならない。
【※2】標準管理規約(団地型)第72条
(議決事項)
第72条 次の各号に掲げる事項については、棟総会の決議を経なければならない。
一 区分所有法で団地関係に準用されていない規定に定める事項に係る規約の制定、変更又は廃止
二 区分所有法第57条第2項、第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起及びこれらの訴えを提起すべき者の選任
三 建物の一部が滅失した場合の滅失した棟の共用部分の復旧
四 区分所有法第62条第1項の場合の建替え及び円滑化法第108条第1項の場合のマンション敷地売却
五 区分所有法第69条第7項の建物の建替えを団地内の他の建物の建替えと一括して建替え承認決議に付すこと
六 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査の実施及びその経費に充当する場合の各棟修繕積立金の取崩し
【※3】標準管理規約(団地型)第50条
(議決事項)
第50条 次の各号に掲げる事項については、団地総会の決議を経なければならない。
一 規約(第72条第一号の場合を除く。)及び使用細則等の制定、変更又は廃止
二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
三 収支決算及び事業報告
四 収支予算及び事業計画
五 長期修繕計画の作成又は変更
六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
七 団地修繕積立金及び各棟修繕積立金の保管及び運用方法
八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
九 第21条第2項に定める管理の実施
十 第28条第1項又は第29条第1項に定める特別の管理の実施(第72条第三号及び第四号の場合を除く。)並びにそれに充てるための資金の借入れ及び団地修繕積立金又は各棟修繕積立金の取崩し
十一 第28条第2項、第3項若しくは第4項又は第29条第2項若しくは第3項に定める建替え等及び敷地分割に係る計画又は設計等の経費のための団地修繕積立金又は各棟修繕積立金の取崩し
十二 区分所有法第69条第1項の場合の建替えの承認
十三 区分所有法第70条第1項の場合の一括建替え
十四 円滑化法第102条第1項に基づく除却の必要性に係る認定の申請
十五 円滑化法第115条の4第1項の場合の敷地分割
十六 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
十七 その他管理組合の業務に関する重要事項
【※4】標準管理規約(団地型)第27条
(管理費)
第27条 管理費は、次の各号に掲げる通常の管理に要する経費に充当する。
一 管理員人件費
二 公租公課
三 共用設備の保守維持費及び運転費
四 備品費、通信費その他の事務費
五 共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
六 経常的な補修費
七 清掃費、消毒費及びごみ処理費
八 委託業務費
九 専門的知識を有する者の活用に要する費用
十 管理組合の運営に要する費用
十一 その他第34条に定める業務に要する費用(次条及び第29条に規定する経費を除く。)
【※5】標準管理規約(団地型)第34条
(業務)
第34条 管理組合は、団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。
一 管理組合が管理する土地及び共用部分等(以下本条及び第50条において「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
二 組合管理部分の修繕
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
四 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
八 団地建物所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 土地及び共用部分等の変更及び運営
十 団地修繕積立金及び各棟修繕積立金の運用
十一 官公署、町内会等との渉外業務
十二 マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務
十三 広報及び連絡業務
十四 管理組合の消滅時における残余財産の清算及び建物の取壊し時における当該棟に係る残余財産の清算
十五 その他団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理に関する業務
【※6】標準管理規約(団地型)第77条
(理事長の勧告及び指示等)
第77条 団地建物所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「団地建物所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその団地建物所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 団地建物所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 団地建物所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は団地建物所有者等若しくは団地建物所有者等以外の第三者が土地、団地共用部分及び附属施設において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
二 土地、団地共用部分及び附属施設について生じた損害賠償金又は不当利得による返還金の請求又は受領に関し、団地建物所有者のために、訴訟の原告又は被告になること、その他法的措置をとること
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5 前項に基づき請求した弁護士費用及び差止め等の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
6 理事長は、第3項の規定に基づき、団地建物所有者のために、原告又は被告となったときは、遅滞なく、団地建物所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第45条第2項及び第3項の規定を準用する。
【※7】標準管理規約(団地型)第76条
(義務違反者に対する措置)
第76条 区分所有者又は占有者が建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。
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