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@lawyer.hiramatsu

名誉毀損(不法行為)の効果(損害賠償請求権や名誉回復措置請求権)について

更新日:2023年12月13日

 名誉毀損(不法行為)に関しては、「弁護士平松英樹のマンション管理論」マンション内の人的トラブル(名誉毀損?)2013/2/26「名誉毀損トラブル」でも取り上げましたが、今回は、名誉毀損(不法行為)が認められるときの効果(損害賠償請求権や名誉回復措置請求権)について考えてみましょう。



■ 損害賠償請求について(民法709条、710条)


 名誉毀損(不法行為)により被害を受けた人(以下「被害者」といいます。)は、不法行為者(以下「加害者」といいます。)に対し、民法709条、民法710条【※1】に基づき損害賠償請求をすることができます。実際の訴訟においては「慰謝料」や「弁護士費用」を請求することが多いでしょう。


■ 名誉回復措置請求について(民法723条)


 民法723条は、「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」と規定しています。

 被害者としては、この規定に基づき名誉回復措置請求をすることも考えられます。

 例えば、被害者(原告)は、加害者(被告)に対し、「被告は、別紙1記載の謝罪広告を被告が発行する……書及び……掲示場に別紙2記載の条件で各1回掲載せよ。」などと求めることが考えられます。

 ただし、裁判所は、損害賠償請求については認めても、名誉回復措置請求までは認めないことが多いといえます。名誉回復措置請求まで認められるには、例えば、被害者の名誉が毀損された程度が著しく、その救済としては金銭賠償だけでは十分とはいえず、併せて原状回復の手段をとることが必要(東京高裁平成27年7月8日判決参照)というような場合でなければならないでしょう。


■ 損害賠償請求(金銭支払請求)の執行方法(直接強制について)


 金銭の支払を判決で命じられたにもかかわらず、債務者(被告)がそれを履行しない場合には、債権者(原告)は債務名義(判決)に基づいて強制執行を申し立てることができます。

 金銭債務の場合は、直接強制(民法414条1項)【※2】が可能です。

 直接強制とは、債務者の意思にかかわらず、国家機関(執行裁判所や執行官)が直接に債権内容を実現させる方法です。

 債権者は、債務者の財産の差押え→換価→配当という流れで債権内容の実現を図ることになります。

 ちなみに、金銭債務以外の「与える債務」(例えば、建物の「明渡し」等)についても直接強制は可能です。その場合は、執行官において債務者が占有する建物に対し実力をもって占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法によって行います(民事執行法168条1項【※3】参照)。


■ 名誉回復措置請求の執行方法(代替執行、間接強制について)


 一定の作為(例えば「掲載せよ」などという作為)を判決で命じられたにもかかわらず、債務者(被告)がそれを履行しない場合も、債権者(原告)は債務名義(判決)に基づいて強制執行を申し立てることができます。

 ただし、物を「与える債務」とは異なり、債務者の行為を「なす債務」については直接強制をすることができません。「なす債務」の強制的実現は代替執行か間接強制により図ることになります(民法414条1項【※2】)。

 代替執行とは、その債務を第三者が代わってすることが可能なもの(代替的作為義務、代替的不作為義務)について、債権者が債務者の費用をもって、第三者に債務者のなすべき行為を行わせる執行方法(民事執行法171条1項【※4】)です。

 間接強制とは、債務者が債務名義(判決)で命じられた債務を履行しない場合に、一定の額の金銭 (制裁金) 支払義務を課すことにして、債務者の自発的な債務の履行を促す執行方法(民事執行法172条1項【※5】参照)です。

 なお、代替可能な義務については代替執行によることが可能ですが、間接強制によることも可能です(民事執行法173条1項)【※6】。しかし、代替不能な義務については、代替執行によることができませんので、間接強制によるしかありません。


■ 管理組合の名誉毀損事件における間接強制事例(判例タイムズ1223号292頁をもとに)


 判例タイムズ1223号292頁に掲載されている事件(東京高裁平成17年11月30日判決)は少し特殊なものですが、参考として、その背景及び間接強制決定の内容を紹介しておきます。


(1)背景

 横浜地裁平成10年7月17日判決により、管理組合法人(以下「債務者」といいます。)は、元理事(以下「債権者」といいます。)に対して慰謝料200万円(その他遅延損害金)の支払と謝罪広告等の掲載を命じられました。

 その後、債権者は、謝罪広告等の掲載の履行を求めて横浜地裁に間接強制の申立てをしました。


(2)間接強制の決定内容

 横浜地裁は、平成11年8月5日、概ね以下の内容の決定をしました。

①債務者は、債権者に対し、別紙1記載の謝罪広告を債務者の発行する報告書及び……マンション入口掲示場に別紙2記載の条件で各1回掲載せよ。
②債務者が本決定送達の日から10日以内に前項記載の各債務を履行しないときは、債務者は、債権者に対し、上記期間経過の翌日から履行済みまで各債務あたり1日につき金1万円の割合による金員を支払え。

 

【※1】 民法709条、710条

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者

【※2】 民法414条

(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

【※3】 民事執行法168条1項

(不動産の引渡し等の強制執行)
第百六十八条 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
(2~9項省略)

【※4】 民事執行法171条1項

(代替執行)
第百七十一条 次の各号に掲げる強制執行は、執行裁判所がそれぞれ当該各号に定める旨を命ずる方法により行う。
一 作為を目的とする債務についての強制執行  債務者の費用で第三者に当該作為をさせること。
二 不作為を目的とする債務についての強制執行  債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすべきこと。
(2~6項省略)


【※5】 民事執行法172条1項

(間接強制)
第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
(2~6項省略)

【※6】 民事執行法173条1項

第百七十三条 第百六十八条第一項、第百六十九条第一項、第百七十条第一項及び第百七十一条第一項に規定する強制執行は、それぞれ第百六十八条から第百七十一条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第一項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第二項から第五項までの規定を準用する。
(2項省略)

 

 

 



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