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@lawyer.hiramatsu

不動産強制執行に要した弁護士費用の請求について(管理組合の取下げにより途中で終了した場合)

 今回は以下のような質問について検討します。

 不動産強制執行に要した費用の請求について(管理組合の取下げにより途中で終了した場合)に関連する追加質問です。
 マンション管理組合(以下「X」といいます。)は、区分所有者(以下「Y」といいます。)に対する管理費等支払請求訴訟の判決に基づいて、Y所有の部屋(不動産)の強制執行を申し立てました。この強制執行申立てについては弁護士に依頼しましたので、Xは弁護士費用も支払っている状況です。
 強制競売開始決定後に、Yから未納管理費等の支払がありました。その支払時点の未納管理費等元金全額と遅延損害金全額に相当する金額です。
 Xの管理規約にはマンション標準管理規約(単棟型)60条2項【※1】と同じ規定があります。ただし、マンション標準管理規約(単棟型)60条5項【※1】のような規定はありません。
 Yからは「費用については別途清算する」旨の話がありましたので、Xは、とりあえず競売事件を取り下げて、費用について別途請求しようと考えました。
 その後、Xは、Yに対し、弁護士費用も含めた費用の支払を求めましたが、Yはこれを支払いません。Yは、「弁護士費用について支払義務はない」と反論しています。
 Xは、Yに対し、この弁護士費用を請求できますか。

 【※1】マンション標準管理規約(単棟型)60条

(管理費等の徴収)
第60条 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。
2 組合員が前項の期日までに納入すべき金額を納入しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用等並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。
3 管理組合は、納入すべき金額を納入しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。
4 理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。
5 収納金が全ての債務を消滅させるのに足りないときは、管理組合は、理事会の決議により定める弁済の充当の順序に従い、その弁済を充当することができる。
6 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用等並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。
7 組合員は、納入した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

■ はじめに


 ご質問のような事案のケース(以下「本件」といいます。)では、色んな立場の人が様々な主張(解釈)をしてくるでしょう。とりあえず、ここでは、本件に関する私見を述べておきます。


■ 検討


 まず、不動産強制執行に要した費用の請求について(管理組合の取下げにより途中で終了した場合)において、最高裁平成29年7月20日決定の判断、すなわち「既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民訴法73条の規定に基づいて定めるべきものと解するのが相当である」という判断について紹介しました。

 仮に、Xが、民事執行法20条が準用する民訴法73条の規定に基づく手続を選択する場合、執行裁判所に執行費用の負担者を定めてもらい、具体的な負担額については執行裁判所の書記官に定めてもらうことになるでしょうが、ここで注意すべきは、その手続で確定される費用の中に「弁護士費用」は含まれないということです。

 したがって、Xとしては、Yの弁護士費用支払義務を確定させるための訴訟手続を検討する必要が生じます。不動産強制執行に要した費用の請求について(管理組合の取下げにより途中で終了した場合)において、あえて訴訟手続の選択をメインに検討した理由はここ(弁護士費用の負担の問題)にあります。


 さて、本件の弁護士費用について、「Xは、Yに対し、この弁護士費用を請求できますか」という点ですが、東京高判平成26年4月16日の判示【※2】をもとに検討すると、結論としては、本件の「弁護士費用」についても「違約金」として区分所有者Yに対し請求できるものと思われます。


 【※2】東京高判平成26年4月16日

違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。

■ おわりに


 ご質問に対する結論(私見)としては、「Xは、Yに対し、この弁護士費用を請求できる」ということになります。

 ただし、Xが、民事執行法20条が準用する民事訴訟法73条の規定に基づく手続をとったとしても、この弁護士費用支払義務について判断されるわけではありません。

 Yが弁護士費用の負担を了解すれば別ですが、そうでなければ、Xとしては、訴訟手続を選択し、Yに対し、この弁護士費用の支払を求めることになるでしょう。




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