今回は、以下のようなご質問について検討します。
専有部分の水道料金の支払義務について規約で定めることができるのかという問題(大阪高裁平成20年4月16日判決や名古屋高裁平成25年2月22日判決)【※1】があることは知っています。
私たちのマンションにおいては、大阪高裁平成20年4月16日判決でいう「特段の事情」【※2】があり、専有部分の水道料金の支払義務について規約で定めることができるという前提で質問します。
地方自治体が当事者となった裁判例(東京高裁平成13年5月22日判決)【※3】によれば、地方自治体が水道供給事業者として締結する水道供給契約も私法上の契約であって水道供給契約によって供給される水は改正前民法173条1号所定の「生産者、卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」に含まれるとされ、結局、その水道料金債権についての消滅時効期間は改正前民法173条所定の2年間となるものと判断されています。
改正前民法173条の規定(短期消滅時効の特例)は民法改正(令和2年4月1日施行)によって廃止されていますが、施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による(附則10条4項)とされています。
そうすると、私たちのマンション管理規約で定めている水道料金債権(ただし令和2年4月1日より前に発生している債権)の消滅時効期間については、改正前民法173条が適用されて2年間となるのでしょうか。
■ 回答(結論)
改正前民法173条は適用されないと考えます。
その理由に関しまして、とりあえず東京地裁平成20年1月18日判決を紹介しておきます。
東京地裁平成20年1月18日判決より(出典:ウエストロージャパン)
4 争点(4)(未払光熱水費の消滅時効の成否)について
(1) 被告らは、光熱水費に関する請求権は、被告らが水、湯及び冷暖房という物の給付を受ける対価としての請求権であり、民法173条1号所定の債権ないしこれに準ずる債権に該当するから、その消滅時効期間は2年であると主張している。
(2) しかし、管理組合法人が区分所有者のために行う、電気料金等の代行的支払及び区分所有者に対するその費用償還請求は、区分所有法47条6項の事務としてこれを行っているものであり、電力会社等から料金徴収の委託を受け、その代理人として、区分所有者らに対して請求しているものとは認められない。そして、民法173条1号は、物の売買等の有償契約の対価請求に対する規定であって、管理組合法人が行う事務との間に対価性のない本件の光熱水費の請求について、準用ないしは類推適用される余地はないというべきである。
【※2】「特段の事情」について
大阪高裁平成20年4月16日判決より(出典:ウエストロージャパン)
……①本件マンションは、各専有部分は、すべてその用途が事務所又は店舗とされているところ、②本件マンションでは、被上告人(筆者注:管理組合)が、市水道局から水道水を一括して供給を受け、親メーターで計測された水道使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求していることとしているが、これは本件水道局取扱いの下では、本件マンションの各専有部分について各戸計量・各戸収納制度を実施することができないことに原因し、③被上告人(筆者注:管理組合)が、関西電力から電力を一括して供給を受け、親メーターで計測された電気使用量を基に算出された全戸分の使用料金を一括して立替払した上、各専有部分の面積及び同部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しているが、これは本件マンションの動力の想定負荷が低圧供給の上限を超えており、また、本件マンションには純住宅が2軒以上なく電気室供給もできないため、関西電力と本件マンションの各専有部分との間で、電気供給につき戸別契約(低圧契約)を締結することができないことに原因するというのであるから、本件マンションにおける水道料金等に係る立替払とそれから生じた債権の請求は、各専有部分に設置された設備を維持、使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為であり、当該措置は建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができる。
そうであれば、被上告人(筆者注:管理組合)の本件マンションの各区分所有者に対する各専有部分に係る水道料金等の支払請求権については、前記特段の事情があるというべきであって、規約事項とすることに妨げはなく、本件規約62条1項に基づく債権であると解することが相当である。
【※3】東京高裁平成13年5月22日判決(出典:ウエストロージャパン)
地方自治体が有する金銭債権であっても、私法上の金銭債権に当たるものについては民法の消滅時効に関する規定が適用されるものと解されるところ(地方自治法236条1項は、「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めのあるものを除くほか、5年間これを行わないときは、時効により消滅する。」と定めているが、同項にいう「他の法律」には民法も含まれるものと解される。そして、このように解したとしても、上記規定は、公法上の金銭債権について消滅時効期間を定めた規定として意味を有するのであって、無意味な規定となるものではない。)、水道供給事業者としての被控訴人の地位は、一般私企業のそれと特に異なるものではないから、控訴人と被控訴人との間の水道供給契約は私法上の契約であり、したがって、被控訴人が有する水道料金債権は私法上の金銭債権であると解される。また、水道供給契約によって供給される水は、民法173条1号所定の「生産者、卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」に含まれるものというべきであるから、結局、本件水道料金債権についての消滅時効期間は、民法173条所定の2年間と解すべきこととなる。
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