今回は、以下のような質問について検討します。
一般的なマンション管理組合の管理規約では、マンション標準管理規約を参考に、総会議事録や理事会議事録の閲覧に関する規定【※1】、会計帳簿や組合員名簿等の閲覧に関する規定【※2】、規約の閲覧に関する規定【※3】が定められています。
仮に、区分所有者が、閲覧請求訴訟を提起しようとする場合、管理組合(権利能力なき社団)を被告とすべきなのでしょうか、それとも理事長を被告とすべきなのでしょうか。
【※1】議事録の閲覧に関する規定
マンション標準管理規約(単棟型)第49条、第53条参照
総会の議事録について
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合(第49条3項)
理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録の閲覧をさせなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合(第49条5項)
理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、議事録の閲覧(議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を紙面又は出力装置の映像面に表示する方法により表示したものの当該議事録の保管場所における閲覧をいう。)をさせなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
理事会の議事録について
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合(第53条4項)
議事録については、第49条(第4項を除く。)の規定を準用する。ただし、第49条第2項中「総会に出席した組合員」とあるのは「理事会に出席した理事」と読み替えるものとする。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合(第53条4項)
議事録については、第49条(第6項を除く。)の規定を準用する。ただし、第49条第3項中「総会に出席した組合員」とあるのは「理事会に出席した理事」と読み替えるものとする。
【※2】会計帳簿や組合員名簿等の閲覧に関する規定
マンション標準管理規約(単棟型)第64条1項
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
【※3】規約の閲覧に関する規定
マンション標準管理規約(単棟型)第72条4項
(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合
区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、理事長は、規約原本、規約変更を決議した総会の議事録及び現に有効な規約の内容を記載した書面(以下「規約原本等」という。)並びに現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面(以下「使用細則等」という。)の閲覧をさせなければならない。
(イ)電磁的方法が利用可能な場合
区分所有者又は利害関係人の書面又は電磁的方法による請求があったときは、理事長は、規約原本、規約変更を決議した総会の議事録及び現に有効な規約の内容を記載した書面又は記録した電磁的記録(以下「規約原本等」という。)並びに現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面又は記録した電磁的記録(以下「使用細則等」という。)の閲覧をさせなければならない。
■ 裁判例について
過去の請求認容(一部認容を含む。)の裁判例をみると管理組合が被告とされているものが多いようです。例えば下記の裁判例【※4】は、管理組合(下記裁判例5は管理組合法人)が被告とされています。
ただし、札幌地裁令和4年5月26日判決(マンション管理組合各種帳票類閲覧請求事件/ウエストロージャパン2022WLJPCA05269006)では理事長が被告となっています。
では、本来、閲覧請求の相手方となるべき者はどちらでしょうか。
【※4】管理組合が被告となっている裁判例
1.東京地裁令和2年3月26日判決(管理組合役員当選無効確認等請求事件/ウエストロージャパン2020WLJPCA03268008)
2.東京地裁平成29年10月26日判決(組合員名簿閲覧請求事件/ウエストロージャパン2017WLJPCA10268022)
3.大阪高裁平成28年12月9日判決(情報開示等請求控訴、同附帯控訴事件/ウエストロージャパン2016WLJPCA12099002)
4.東京地裁平成26年9月18日判決(会計帳簿等閲覧請求事件(本訴)、損害賠償請求事件(反訴)/ウエストロージャパン2014WLJPCA09188001)
5.東京高裁平成23年9月15日判決(会計帳簿等閲覧請求控訴事件/ ウエストロージャパン2011WLJPCA09157001)
■ 検討
現実問題として、仮に管理組合が被告とされた場合、その代表者理事長が「請求の相手方となるのは理事長である」といった主張(反論)をすることはまず考えられません。
管理組合側としては、誰が被告となるべきかの問題より、当該閲覧請求の当否(認容されるべきか棄却されるべきか)のほうが重要だからです。
そのため、実際の裁判では、誰が被告となるべきかの問題が争点となることはあまりないと思います。
ただし、その問題について判断された裁判例がないわけではありません。
ここでは、東京高裁令和4年3月9日判決を紹介しておきます。この東京高裁判決は、東京地裁令和3年4月28日判決(マンション管理組合理事会議事録等閲覧請求事件/ウエストロージャパン2021WLJPCA04288016)の控訴審判決にあたるものです。
同東京高裁判決において、裁判所は以下のように判断しています。
【※5】東京高裁令和4年3月9日判決
第3 当裁判所の判断
1 本件の閲覧請求等の相手方について
本件訴え(当審における控訴人の追加請求を含む。)の被告は、被控訴人であるところ、被控訴人は、権利能力なき社団であるから(前提事実(1))、被告としての当事者能力を有する(民事訴訟法29条)。そして、本件のような給付訴訟において、被告適格を有する者は、原告である控訴人によって給付義務を負うと主張され被告とされている者であるから、被控訴人は、被告適格を有する。
ところで、区分所有法33条及び規約の各規定(57条3項、72条、81条)によれば、規約原本等の文書は、管理者が保管し、組合員(区分所有者)又は利害関係人は、上記文書等の管理者に対し、閲覧等の請求をするものとされており、上記管理者は、被控訴人の理事長(前提事実(1))であるから、組合員(区分所有者)は、被控訴人の理事長に対し、文書の閲覧等の請求権を有することになり(仮に、区分所有法28条によって管理者の権利義務に準用される民法645条を根拠として、組合員に管理者に対する文書の謄写請求権があると主張するのであれば、組合員は、管理者である理事長に対して上記請求をすべきことになるし、控訴人が当審において追加した閲覧等の実施に当たっての配慮請求も、閲覧等の請求に附随するものである以上、仮に、そのような請求権があると主張するのであれば、管理者である理事長に対して上記請求をすべきことになる。)、その請求を拒否された場合、被控訴人の理事長を被告として文書の閲覧等の請求について訴訟を提起すべきことになる。しかし、本件訴訟は、上記のとおり、被控訴人との間で、文書の閲覧等の請求の当否が争われており、被控訴人が被告とされていることには疑義があるが、控訴人の主張及び原審以来の訴訟経過に鑑み、この点を措いて検討することとする。
2 争点①(本件議事録等の謄写請求権があるか)について
以下略
■ さいごに(補足)
ここでは、上記【※5】のように判断する裁判所もあるということを紹介するにすぎず、筆者自身が、積極的に「閲覧請求の相手方(被告)となるべきは管理組合でなく理事長である」と言いたいわけではありません。
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