今回は、以下のようなご質問について検討します。
私たちのマンションの管理規約ではペット飼育禁止に関する規定はありません。このような場合において、総会の普通決議をもってペット飼育禁止を定めることは可能でしょうか。
また、区分所有者の中には、「区分所有法30条1項【※1】の『建物』とは共用部分を指すであって、専有部分を含まない。」と主張している人もいますが、この点についてはどうでしょうか。
【※1】区分所有法30条1項
建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
■ 規約事項(ご質問の後段について)
まず、ご質問の後段から検討します。
区分所有法30条1項【※1】の「建物」とは、共用部分だけでなく、専有部分を含む意味での「建物」を指します。そのため、専有部分の使用に関する事項も規約で定めることは可能です。「専有部分の用途」に関するマンション標準管理規約(単棟型)12条1項【※2】などはその例です。
【※2】マンション標準管理規約(単棟型)12条1項
区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
ちなみに、区分所有法3条は、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と規定していますが、同条でいう「建物」についても、専有部分を含む意味での「建物」を指します。
■ 総会の普通決議をもってペット飼育禁止を定めることは可能か(ご質問の前段について)
次に、ご質問の前段について検討します。
専有部分の管理又は使用に関しては、例えば、①規約(特別決議)によって制限する方法、②規約に基本的な事項を定めた上で、細目については普通決議に委ねる方法、③普通決議のみをもって制限する方法が考えられます。
ご質問は上記③の方法に関するものでしょう。
この点、東京高裁平成15年12月4日判決【※3】のような考え方に従えば、上記③の方法も可能なように思われます。
しかし、東京地裁平成19年10月11日判決【※4】のような考え方もありますので注意が必要です。
私見としては、基本的には東京地裁平成19年10月11日判決【※4】のような考え方をもとに対応すべきと考えます。具体的には、上記①または②の方法によるべきであって、③の方法は避けるべきと考えます。
実務上は、マンション標準管理規約(単棟型)18条関係コメント【※5】を参考にすべきです。
【※3】東京高裁平成15年12月4日判決
・・・区分所有法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めているが専有部分の管理又は使用について、規約で定めなければならないとは規定しておらず、専有部分の権利者の保護については、同法31条1項後段で、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならない。」と規定しているだけである。また、同法18条1項、21条は、共用部分の管理を集会の普通決議事項と定めているが、このことから専有部分の管理については、規約で定めなければならないと解することもできない。
このように考えた場合、専有部分の建物の管理に関しては、規約によって制限する方法、集会の決議によって制限する方法、ないしは、規約に基本的な事項を定め、細目を規則や集会決議にゆだねるなど、いくつかの方法を執ることが考えられ、例えば、規約によって規制する場合は、その設定や変更に集会の特別決議という厳格な手続を要するため、恒久性がある反面、事態の推移に応じて適宜改定することが困難になるなど、区分所有者が選択した方法のいかんによって、手続や機能に差異を生じることになるが、そのいずれを選択するかは、区分所有者による私的自治にゆだねられるものと解され、そのようにして定められた事項については、区分所有者の意思が反映されたものとして、これを尊重すべきである。
【※4】東京地裁平成19年10月11日判決
区分所有法30条は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」について、この法律で定めるもののほか、規約で定めることができると規定しているところ、この規定は、専有部分に関してであっても、区分所有者相互間において管理又は使用を調整するために必要な事項については、規約で定めることができるとの趣旨を含むものと解される。そして、区分所有法上、「共用部分の管理に関する事項は、前条(共用部分の変更)の場合を除いて、集会の決議で決する。」(同法18条1項)と規定されているが、専有部分の管理又は使用の調整に関する事項を集会の決議で定めることを許容する規定は置かれていないこと、専有部分については、本来それぞれの所有者がその意思に従って自由に管理及び使用をすべきものであることを考慮すると、専有部分の管理又は使用の調整に関する事項については、集会決議(普通決議)で定めることができず、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議(同法31条1項、以下「特別決議」という。)を要する規約でのみ定めることができると解することが、法文の文理に沿う解釈であると考えられる。
【※5】マンション標準管理規約(単棟型)18条関係コメント
① 使用細則で定めることが考えられる事項としては、動物の飼育やピアノ等の演奏に関する事項等専有部分の使用方法に関する規制や、駐車場、倉庫等の使用方法、使用料、置き配を認める際のルール等敷地、共用部分の使用方法や対価等に関する事項等が挙げられ、このうち専有部分の使用に関するものは、その基本的な事項は規約で定めるべき事項である。また、マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高いと認められた場合において、使用細則を根拠として、居住者による共用部分等の使用を一時的に停止・制限することは可能であると考えられる。
なお、使用細則を定める方法としては、これらの事項を一つの使用細則として定める方法と事項ごとに個別の細則として定める方法とがある。
② 犬、猫等のペットの飼育に関しては、それを認める、認めない等の規定は規約で定めるべき事項である。基本的な事項を規約で定め、手続等の細部の規定を使用細則等に委ねることは可能である。
なお、飼育を認める場合には、動物等の種類及び数等の限定、管理組合への届出又は登録等による飼育動物の把握、専有部分における飼育方法並びに共用部分の利用方法及びふん尿の処理等の飼育者の守るべき事項、飼育に起因する被害等に対する責任、違反者に対する措置等の規定を定める必要がある。
③ ペット飼育を禁止する場合、容認する場合の規約の例は、次のとおりである。
ペットの飼育を禁止する場合
(ペット飼育の禁止)
第○条 区分所有者及び占有者は、専有部分、共用部分の如何を問わず、犬・猫等の動物を飼育してはならない。ただし、専ら専有部分内で、かつ、かご・水槽等内のみで飼育する小鳥・観賞用魚類(金魚・熱帯魚等)等を、使用細則に定める飼育方法により飼育する場合、及び身体障害者補助犬法に規定する身体障害者補助犬(盲導犬、介助犬及び聴導犬)を使用する場合は、この限りではない。
ペットの飼育を容認する場合
(ペットの飼育)
第○条 ペット飼育を希望する区分所有者及び占有者は、使用細則及びペット飼育に関する細則を遵守しなければならない。ただし、他の区分所有者又は占有者からの苦情の申し出があり、改善勧告に従わない場合には、理事会は、飼育禁止を含む措置をとることができる。
④ 専用使用部分でない共用部分に物品を置くことは原則として認められないが、宅配ボックスが無い場合等、例外的に共用部分への置き配を認める場合には、長期間の放置や大量・乱雑な放置等により避難の支障とならないよう留意する必要がある。
⑤ 第12条において住宅宿泊事業を可能とする場合は、必要に応じ、住宅宿泊事業法第13条に基づき掲げなければならないこととされている標識の掲示場所等の取扱いについて、あらかじめ使用細則において明確化しておくことが望ましい。
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