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@lawyer.hiramatsu

マンション管理:区分所有法10条に基づく区分所有権売渡請求権

更新日:2023年12月13日

 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)10条は、区分所有権売渡請求権について定めています。今回は、この区分所有権売渡請求権について確認しておきましょう。


 区分所有法10条

(区分所有権売渡請求権)
第十条 敷地利用権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。

■ 専有部分の収去請求について


 1棟の建物(マンション)には、敷地が存在しています。

 敷地利用権とは、「専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利」(区分所有法2条6項)をいいます。

 通常、1棟の建物(マンション)が分譲される際には敷地利用権が存在しています。敷地利用権が存在しない建物(マンション)が分譲されることは通常ありません。

 敷地利用権としては、所有権、地上権、賃借権又は使用借権が考えられます。なお、賃借権や使用借権としての敷地利用権は、区分所有者全員の準共有に属していると考えられています。

 「敷地権」とは、敷地利用権のうち登記されている権利をいいます(不動産登記法44条1項9号)。「敷地権の登記がない」からといって「敷地利用権がない」というわけではありません。


■ 区分所有権の売渡請求について


 敷地利用権が賃借権であった場合を考えてみましょう。

 例えば、区分所有者の債務不履行により、土地所有者が当該区分所有者との賃貸借契約を有効に解除したとすれば、区分所有者は敷地利用権を有しないことになります。

 そのため、土地所有者は当該区分所有者に対し専有部分の収去を求めることができます。

 土地所有者が当該区分所有者に対し専有部分の収去を求めることができるとしても、1棟の建物の中の当該専有部分だけ収去することは現実的には難しいといえます。

 そこで、区分所有法10条は、収去請求を有する者から敷地利用権を有しない区分所有者に対する区分所有権売渡請求を認めています。

 なお、収去請求と売渡請求との関係が問題となりますが、区分所有法10条は収去請求を排除するものではないと考えられています。例えば、東京地裁平成16年4月27日判決は以下のように判示しています。


 東京地裁平成16年4月27日判決(出典:ウエストロー・ジャパン)

区分所有法10条は、専有部分の収去の請求を否定したものではなく、例えば、縦割りの区分所有建物の端の専有部分の収去を求める場合や本件におけるように1棟の建物の区分所有者が2人であり、一人の区分所有者が敷地の所有権に基づき他の区分所有者に対しその区分所有建物の収去を求める場合は、物理的にも専有部分の収去は可能であり、このような場合には、同条の売渡請求権を行使しないで、専有部分の収去を請求しても差し支えないと解するのが相当である。

 もちろん、専有部分を収去請求できるとしても、他の区分所有者の権利を侵害することはできません。仮に他の区分所有者の権利を侵害した場合には不法行為責任(損害賠償責任)を負うことになるでしょう。


■ 売渡請求権の行使について


 区分所有法10条の売渡請求権は形成権です。相手方に対する請求権行使の意思表示によって「時価」による売買の効果が生じます。

 「時価」とは、当該区分所有権の客観的な価格といわれていますが、実際には「時価」の考え方(評価)に関し、売手側と買手側との間で対立します。売手側は高く見積もり、買手側は低く見積もるでしょう。双方の間に争いがあれば、最終的には訴訟(判決)で解決するしかありません。通常は売渡請求権を行使した側が原告となって建物所有権移転登記手続等を求める訴訟を提起します。

 訴訟においては、不動産鑑定士(鑑定人)による不動産鑑定評価書が考慮されることが多いでしょう。ただし、最終的には裁判所(裁判官)が判断します。

 なお、当該区分所有権の時価の算定(評価)において、敷地利用権は認められないものの、場所的利益が考慮されることはあります。例えば、東京地裁平成13年11月8日判決においては、建物価格(158万円と評価)に場所的利益(建付地価額の30%【注】として295万円と評価)が加算され、当該区分所有権の時価を算出(453万円と評価)しています。

【注】場所的利益について、一律に建付地価額の30%になるわけではありません。


東京地裁平成13年11月8日判決(出典:ウエストロー・ジャパン)(下線は筆者による)

 鑑定人……作成の不動産鑑定評価書によれば、同人は、本件区分建物を含む本件一棟建物の再調達原価(7460万円)を求め、経済的残存耐用年数(45年)に基づく方法と観察減価法を併用して減価額(5320万円)を査定し、一棟の建物全体の価格時点における積算価格(2140万円)を求めた上で、階層別効用比率(19.758パーセント)及び位置別効用比率(37.358パーセント)を基に算出した本件区分建物専有部分に照応する価値率(7.381パーセント)を乗じて本件区分建物の建物価格を158万円と評価しているが、同鑑定結果は、その手法内容に特段不合理な点はなく相当なものとして是認できる。
 また、同人は、本件土地について、取引事例比較法及び収益還元法を適用して求められた比準価格及び収益価格に地価公示価格からの規準価格を1:2:1の割合で加重平均して、その更地価格を1億3800万円とした上で、建物解体費(537万円)を控除して建付地価額を1億3300万円と査定し、さらに、前記のとおりの本件建物の価値率(7.381パーセント)を乗じて得られた本件区分建物の建付地価額を982万円としその30パーセントを場所的利益として本件区分建物の建物価格に加算して本件区分建物の時価を453万円と査定しているが、堅固建物の一部の区分建物については、たとえその占有権原を対抗できないものであっても現実にはその収去がほとんど不可能であることからくる収去されない場所的利益を考慮して加算して本件区分所有権の時価を算出することは相当というべきである。
 したがって、本件区分所有権の時価は、453万円とするのが相当である。

 

 

 




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